スコティッシュテリアに多い膀胱ガンの研究
犬種ごとに多く発症する病気がありますが、スコティッシュテリアの場合は膀胱ガンで、他の犬種の約20倍もの割合にも上ります。
犬の膀胱ガンの多くは人間の筋層浸潤性膀胱ガン(膀胱の筋層にまでガン細胞が入り込み広がるタイプのガン)に似たタイプで、初期段階には症状が出ず気づかないうちに進行してしまいます。
スコティッシュテリアは膀胱ガンに対して高い遺伝的素因を持っているため、このガンの早期発見の研究対象として最適な集団となり得ます。
アメリカのパデュー大学獣医学部の比較腫瘍学の研究者が、スコティッシュテリアの膀胱ガン早期発見のための長期にわたる調査を行い、この度その結果が発表されました。
120頭のスコティッシュテリアを3年にわたって調査
研究チームは120頭のスコティッシュテリアを対象に、3年間にわたる調査を実施しました。調査に参加したスコティッシュテリアは、6歳以上で尿路疾患の臨床症状や尿路ガンの既往歴がない犬たちです。
犬たちは6ヶ月間隔で一般的な健康診断、エコー検査、尿沈渣検査(尿を遠心分離機にかけて沈殿物を顕微鏡検査する方法)によるスクリーニングを3年にわたって受け、スクリーニングにおいて陽性と判断された場合は、膀胱鏡検査による生検が行われました。
検出された早期の腫瘍は分子学的特徴が検査され、すでに後期にまで進行した腫瘍と比較されガンがどのように変化して発達していくのを分子レベルで研究することができました。
またこの研究では、膀胱ガンのスクリニーング検査として使用されている既存の2種類の尿検査の精度の評価も行い、これらの検査ではガンを正確に予測や発見ができないことも明らかになりました。
早期発見と高い寛解率につながる検査の重要性
この調査を行う中で、120頭の犬のうち32頭が早期の膀胱ガンであることが判明しました。行動の変化や症状が出る前に検診でガンが発見されたのは素晴らしいことです。
膀胱ガンと診断された犬には、犬の膀胱ガン治療に通常使用されているデラコキシブという薬が投与されました。
ほとんどの場合はもっと進行した状態で投与されるため、デラコキシブ投与による寛解率は17〜25%と言われていますが、この研究で早期発見された犬たちにおいては42%の寛解率を達成しました。
ガンの初期段階で投与する薬剤は、より進行したガンに投与するよりも実際に効果があることを示す証拠が得られたのは重要な点です。
この研究で得られた、早期ガンと進行したガンとの間で予想される細胞および分子プロセスの差異などのデータは国立ガン研究所で公開され、他の科学者による犬および人のガン研究に役立てられます。
まとめ
膀胱ガンの発生率が高いスコティッシュテリアを継続的に調査した結果、ガンを早期に発見し進行する前に治療することを可能にするための検査の最初のステップが始まったという内容をご紹介しました。
研究に参加した犬たちの飼い主の中には、何百キロもの距離から来ている人たちもいたそうです。スコティッシュテリアの飼い主たちが早期ガン発見のための検査にどれほど大きな希望を持っているかが伺えます。
この研究は犬のガンを早期に発見するための取り組みとして最初のものだそうです。研究者は、人間が定期的にガンのスクリーニング検査を受けるように犬もガン検診を受けるようになるべきだとしています。
研究は始まったばかりですが、ガンの早期発見によって苦しむ犬や飼い主さんが少なくなることに希望が持てそうです。
《参考URL》
https://doi.org/10.3389/fonc.2022.101196