犬に多く発生する肉腫の臨床試験
犬の悪性腫瘍の中で、骨や軟部組織にできる肉腫は最も発生率が高いガンのひとつです。治療方法は腫瘍を取り除く外科手術を行なった後に、抗ガン剤や放射線治療などの化学療法を行うのが一般的です。
このような犬の肉腫の新しい画期的な治療方法としてユニークな試みが行われています。犬の肉腫治療の臨床試験を主導しているのは、オーストラリアのパースにあるテレソン・キッズ研究所です。
テレソン・キッズ研究所はパース小児病院をベースとするオーストラリア最大の医療研究機関です。つまり人間のための医療機関なのですが、なぜ犬の治療の臨床試験に携わっているのでしょうか。
手術の際に免疫療法薬のジェルを注入する治療法
肉腫は犬だけでなく小児ガンの中でも3番目に多いもので、悲しいことに3人に1人が亡くなっています。治療方法は犬も人間もほぼ同じで、外科手術で腫瘍を取り除いた後に化学療法が行われます。
しかし外科手術で完全に悪性腫瘍を取り除いてしまうことは難しく、そのせいで転移再発が起きることも珍しくありません。
抗ガン剤や放射線治療は効果はありますが、強い副作用など患者への負担も大きいものです。現在パースの病院で犬の治療に試験的に用いられている世界初の方法は、腫瘍を切除するための外科手術の際に免疫療法薬のジェルを注入し、その後通常通りに縫合するというものです。
注入されたジェルは体内で分解される天然のポリマーでできており、体内で免疫療法薬をゆっくりと放出していきます。免疫療法薬は全身から抗ガン作用の強い免疫細胞を呼び寄せて腫瘍のある場所で活性化させ、残ったガン細胞を退治していきます。
この新しい治療方法では負担の大きい化学療法を受ける回数を減らし、転移や再発の可能性を低くすることが期待されています。
治療を受けた犬たちの経過は?
今までのところ、7頭の犬がこの治療法を受け良好な経過を辿っているそうです。これまでの免疫療法は肉腫にはあまり効果がなかったのですが、西オーストラリア大学の分子科学者が開発した天然ポリマー製のジェルは犬の肉腫治療に高い効果を発揮しています。
犬の治療にあたっている獣医師は、肉腫と診断された犬たちが他では受けることのできない画期的な治療を受け、小児ガンの子どもたちを助ける可能性を喜ばしく思っていると述べています。嬉しくなるお話ですね。
まとめ
オーストラリアの小児病院の研究所が犬の肉腫治療の臨床試験を主導し、新しい治療方法が高い効果を発揮しているというニュースをご紹介しました。この治療方法は小児ガンの治療に導入される予定だということです。
研究者は最終的に、このような免疫療法が抗ガン剤や放射線療法に完全に置き換えられることを願っていると語っています。現在伝えられているニュースだけでも十分に素晴らしいものですが、もし研究者の夢が実現すれば人にとっても犬にとっても本当にありがたいことですね。