犬にとってのスキンシップ
犬の祖先はもともと群れで生活をしていました。仲間同士で舐めあうことで絆を確かめ、触れることでコミュニケーションをとってきたのです。その習性は現代の犬にも引き継がれており、犬は飼い主さんから触られることをコミュニケーションの一種だととらえて、喜んでいると考えられています。
2017年に、ドッグカメラを開発・販売している企業が日米の25〜45歳の女性ドッグオーナーを対象に行なった調査結果によると、54.8%の家庭が1週間に4日以上の留守番をさせていることが分かりました。特に日本では、8時間以上の留守番をさせている家が多いことも分かりました。
近年は新型コロナ感染症の流行により在宅時間が一時的に増えているご家庭も多く、この機会に犬と一緒に暮らし始めたというご家族も多いようです。しかし、また元のような生活スタイルに戻った時に、急に愛犬とのスキンシップが減ることは、愛犬に対してマイナスの要素が大きいことが予想されます。
今まで十分だったスキンシップの時間が減ることで、愛犬は飼い主さんから急に冷たくされ、愛されなくなってしまったと感じて情緒不安定になったり、関心をひこうと無駄吠えや破壊行動、自傷行動などのいわゆる問題行動につながることも十分に考えられるからです。
飼い主とのスキンシップが犬に与えるメリット
ではここからは、飼い主さんとのスキンシップが犬に与えるメリットについてご紹介していきましょう。
精神的に安定する
母親と乳幼児が見つめ合いスキンシップを重ねることで、お互いの体内で幸せホルモンといわれているオキシトシンが分泌され、お互いに幸福感が増し、愛情が深まり、信頼関係が強くなることが知られています。
それと全く同じことが、犬とその飼い主の間にも起こることが研究結果として明確になっています。飼い主さんが愛犬と積極的にスキンシップを図ることで、お互いの愛情が深まり、信頼関係が強くなることから、愛犬と飼い主の双方の精神が安定してくることが期待できます。
体がリラックスする
毛並みに沿って手のひら全体でやさしく撫でてあげるだけでも、体がリラックスします。その際にゆっくりと擦るように撫でたり、足の付根やお腹の辺りは円を描きながら撫でたりするように工夫すると、筋肉を解して血流を良くする効果も見込めます。
また散歩から帰った後には、ストレッチのように後ろ足を軽く曲げ伸ばしするのもよいでしょう。飼い主さんから触られ、筋肉をほぐされることで、筋肉や関節に痛みがある場合も緩和の手助けとなるでしょう。
脳が活性化される
声をかけ直接体を触るという刺激により、愛犬の脳が活性化されます。特に筋力や視力などが弱ってきた老犬には、できるだけ多くの刺激を与えることで老化防止効果が期待できます。
特に用がなくても、積極的に声をかけながらスキンシップを図ることをおすすめします。
体調不良に早く気付いてもらえる
スキンシップをしていると、いつもと同じ場所を触っているのに感触が異なる、いつもは嫌がらないのに嫌がるといった変化を飼い主さんが察知しやすいため、愛犬は飼い主さんに自分の体調不良に早く気付いてもらえます。
また、日常的なスキンシップにより体中のどこを触られても不快に思わないようになりますので、病気で看病される場合や老化により自由に動けなくなり介護を受ける際にも、ストレスなく飼い主さんのお世話を受けることができるようになるでしょう。
過度なスキンシップには注意が必要
愛犬にとって、飼い主さんからのスキンシップは嬉しいものですし、メリットも多いです。しかし、行き過ぎた過度なスキンシップには注意が必要です。
ここでいう「過度なスキンシップ」とは、口移しでご飯を上げる、キスをする、同じ食器を使うなどといった行為です。
人と犬の間で感染する共通感染症があり、中には命に関わるような危険度の高い感染症もあるため、犬と飼い主さんの生活環境は常に清潔に保ち、かつ行き過ぎたスキンシップは避けるように気をつけましょう。
また、いくら大好きな飼い主さんだとはいっても、触られるのは嫌な場所があったり、長々としたスキンシップは好まないという犬もいたりするでしょう。飼い主さんの気持ちを優先して、愛犬に不快感を与えないようなスキンシップを心がけましょう。
愛犬の様子を見ながら、適度な距離感を保ってしっかりと必要なスキンシップを図ることが大切です。下記のような様子が見られた場合は、犬が嫌がっているサインである可能性がありますので、一旦スキンシップを中断することも考えてください。
- あくびをする
- 瞬きが多くなる
- 頭をブルブルッと振る
- 顔を背ける
- 視線を逸らせる
- 鼻先を舐める など
まとめ
愛犬にとって、飼い主さんとのスキンシップはとても大切なものです。優しく声をかけられながら撫でてもらうことで、愛犬は飼い主さんからの愛情を感じ取り、飼い主さんへの愛情を自らも深めていきます。お互いに信頼関係を築いていくための基盤となるのです。
しかし、度を超えたスキンシップにより愛犬と飼い主さんとの間で病気が感染してしまったり、飼い主さんの思いだけを優先したスキンシップで愛犬に不快感をもたらしたりしてしまっては、せっかくのスキンシップもそのメリットを活かすことができません。
決して飼い主さんの気持ちだけを優先するのではなく、愛犬の様子を見ながら、愛犬はどこを触られるのが好きなのか、どの程度までのスキンシップを望んでいるのか、といったことを常に考えながら、適度な距離を保ったコミュニケーションを図りましょう。