ヨーロッパでの犬のリンパ腫の有病率を調査
犬のリンパ腫は悪性腫瘍のひとつで、それら悪性腫瘍の中でも発生率が高いものです。リンパ腫の発生率が特に高いと言われている好発犬種には、ドーベルマン、バーニーズマウンテンドッグ、ロットワイラー、ボクサー、ブルマスティフがあります。
犬にとって「犬種」は遺伝的クラスターと見なすことができるので、遺伝的疾患の素因に関する研究では、犬種別の有病率や発生率を知ることが重要です。
このたびイタリアのミラノ大学獣医学部の研究者を中心として、ヨーロッパ全域から80人以上の研究者が参加し、ヨーロッパ各国の犬種別リンパ腫の発生率、リンパ腫のサブタイプごとに犬種リスクがあるのかどうかが調査され、その結果が発表されました。
8カ国のデータベースからリンパ腫データを抽出
調査対象となったのはヨーロッパの8カ国(オーストリア、フランス、イタリア、オランダ、ポルトガル、スペイン、スイス、イギリス)で、8つの獣医療施設のデータベースを用いて2010年から2015年の6年間の犬の結節性リンパ腫の症例が抽出されました。
それぞれの症例のサブタイプ(リンパ腫のさらに細かい種類)がわかる場合はこれらのデータも抽出されました。サブタイプは『B細胞リンパ腫』『T細胞リンパ腫』『Tゾーンリンパ腫』の3つに分類されました。
また比較対照のために、同じ施設のデータベースから同じ期間にリンパ腫以外の診断を受けた犬のリストが対照群として作られました。また、地域別の人気犬種などの変動要因も補正されています。
このようにして全施設で収集された犬のリンパ腫の症例は1,529件、対照群は55,529件でした。
犬種別国別のリンパ腫の素因
集計の結果、8カ国全体では次の9犬種のリンパ腫罹患が特に多くなっていました。
- ラブラドールレトリーバー 91例 5.5%
- ボクサー 88例 5.1%
- ジャーマンシェパード 72例 4.2%
- ゴールデンレトリーバー 71例 4.1%
- ロットワイラー 62例 3.6%
- バーニーズマウンテンドッグ 60例 3.5%
- ドーベルマン 35例 2.0%
- イングリッシュコッカースパニエル 33例 1.9%
- ビーグル 28例 1.6%
国別の統計では、ロットワイラーとドーベルマンは8カ国中5カ国、バーニーズマウンテンドッグは8カ国中4カ国で統計的にリンパ腫を発症する素因を示しました。
ジャーマンシェパードとラブラドールレトリーバーはスイスだけ、ボクサーはフランスだけで統計的な素因を示しました。ゴールデンレトリーバーはイギリスでのみ素因を示し、他の国々では素因を示しませんでした。
サブタイプ別では、ボクサーとラブラドールはT細胞性リンパ腫を発症しやすく、ロットワイラーはB細胞性リンパ腫を発症しやすいことがわかりました。ドーベルマンやバーニーズマウンテンドッグは特定のサブタイプの素因を持たずリンパ腫の発生全般に高い素因を持っています。
ゴールデンレトリーバーはアメリカではTゾーンリンパ腫の発生に素因があると研究報告されていますが、今回のヨーロッパのケースでは特に素因を示しませんでした。
まとめ
ヨーロッパ8カ国における犬種別リンパ腫の発生率を調査した結果、国によって発生率に違いがあること、いくつかの犬種はリンパ腫を発症しやすく、またいくつかの犬種は特定のサブタイプのリンパ腫を発症しやすいと確認されたことをご紹介しました。
これらの結果はそれぞれの素因に関与する可能性のある遺伝子を調査するための土台となりますが、さらに研究が必要だということです。
私は愛犬をリンパ腫で亡くしたので、このような研究の積み重ねが実る日が来ることを心待ちにしています。
《参考URL》
https://link.springer.com/article/10.1186/s12917-018-1557-2