犬の老年医学を研究している大学
過去20年程の間に犬の認知についての研究は大幅に進みました。中でも近年特に増えているのは犬の加齢についての研究です。アメリカでは犬の認知に特化した研究機関を持つ大学や、大規模な犬の老化研究プロジェクトを運営している大学があります。
しかし意外なことにアメリカで犬の老年医学をカリキュラムに取り入れているのはノースカロライナ州立大学だけなのだそうです。
老年医学とは、人間で言えば75歳以上の後期高齢者の健康維持を主な目的とし病気や障害の治療や予防を研究する専門領域です。
ペットの健康管理についての意識が改善され、獣医学の発達も伴って犬はより長く生きられるようになっています。そのため以前ではあまり見られなかった老化に伴う変化や障害が見られるようになりました。
また単に長生きするだけでなく健康寿命を維持することが重要で、犬がどのように歳をとっていくのかを研究する必要性が高まっています。
犬の臨床試験や研究における飼い主の役割
ノースカロライナ州立大学獣医学部の老年医学講座では特に神経変性疾患とそれが犬の神経系に及ぼす影響について研究しています、
運動性、姿勢の安定性、認知パフォーマンス、視覚、聴覚、嗅覚など加齢に伴って観察される変化を定量化(数値で表す)する方法を見つけたいと考え、多くの論文を発表しています。
こちらは同講座が発表した研究のうちのひとつです。
https://wanchan.jp/column/detail/34629
オルビー博士の研究の全てに共通しているのは研究対象が全て獣医学部の病院に治療に来た患者であることです。患者を治療することが研究であり、病気の状態にしたマウスやラットを用いることはありません。
同講座では変性性脊髄症、キアリ様奇形、遺伝性疾患のマッピングなどの研究や治療法の開発が行われています。この臨床試験における患者犬の飼い主の役割は非常に大きいものです。自宅での犬の生活、認知、運動能力については飼い主から提供される情報が重要だからです。
オルビー博士や研究チームの人々は、苦労しながら高齢犬のケアをし研究に協力してくれる飼い主さんたちの存在が研究のモチベーションを高めると話しています。
犬の老年医学は人間にも助けとなる
研究対象の患者犬たちは一般の家庭犬なので、彼らは人間と同じ環境で暮らし、人間が老化するのと同じ社会的および環境的要因の影響を受けます。
つまり吸っている空気、食べるものの原材料、運動量、環境中の化学物質など、人間と同じものにさらされています。
これは自然発生した犬の老化による疾患や障害が、人間の治療のモデルとして最適であることを意味します。犬の老化に関する研究の多くは人間の老化プロセスに対する理解を深めることにもつながっています。
オルビー博士の研究は、人間の筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの臨床試験に直接つながる重要な情報を発見しています。犬たちが治療を受けることが、人間の治療法開発を促しているといのはありがたいことですね。
まとめ
アメリカで唯一犬の老年医学をカリキュラムに取り入れているノースカロライナ州立大学の取り組みをご紹介しました。
犬が高齢になって出てくる症状については「もう歳だから仕方がない」と思われがちですが、適切な治療を受けることで犬と飼い主両方の生活の質が改善し、健康寿命を伸ばす可能性は小さくありません。
このような研究の成果が一般にも浸透することで幸せに長生きする犬が増えるのは嬉しいことです。ましてや、それが人間の健康寿命にもつながっているというのは「犬は人類の最良の友」という言葉を体現しているとも言えますね。
《参考URL》
https://news.ncsu.edu/2022/11/better-care-for-aging-dogs-and-their-aging-people/
http://geriatrics.umin.jp/medical/index.php