愛犬がやけにおとなしい時は隠し事をしているって本当?
SNSへの投稿やWEBサイトでの記事などには、「愛犬がやけにおとなしい時は大抵何かやらかしている」とか「イタズラをした後はすまし顔でおとなしくなる」などということが書かれており、それが愛犬あるあるとして多くの方から共感を得ているようです。
つまり、犬は自分がイタズラや悪いことをしたと自覚し、罪悪感を感じ、ご家族に隠そうと考える動物だと思われているようです。しかし、本当にそうなのでしょうか?
私たち人間も犬も同じ哺乳動物なので、脳の構造や各部位の役割に大差はありません。学習・思考・情動・行動を管理しているのは大脳です。大脳は、表面部分の大脳皮質と深部の大脳髄質で構成され、さらに大脳皮質は新皮質と古皮質で構成されています。
新皮質は感覚中枢、運動中枢、精神活動を担っていて、古皮質は本能行動、情動行動といった種の保存のために必要な行動や記憶を担っています。
人間と犬の大きな違いは、この新皮質と古皮質の割合です。人間は新皮質の割合が非常に高いのに対して、犬は低いのです。そのため、人間は言語能力に長けていて、言葉を使った論理的な思考ができますが、犬は単語を記憶できても言語そのものが理解できず、論理的な思考は苦手であると考えられています。
そう考えると、犬が隠しごとをするというのは、いわゆる「擬人化」ではないかとも思われます。今回は、イタズラをした犬の心理について考えてみたいと思います。
愛犬が反省したり罪悪感を感じているように見える仕草
仕事や用事を済ませて帰宅した時に愛犬がイタズラした痕跡を発見すると、「いつもよりおとなしいし、どうも後ろめたそうな、反省しているような表情だな」と感じることがあると思います。
もしかすると、イタズラの痕跡を目にして「どうしてこんな事したの!」と言葉に出してしまっているかもしれません。そんな時に見せる愛犬の反省したような表情・仕草は下記のようなもののはずです。
- 背中を丸めあごを下げてうつむいたり地面のニオイを嗅いだりしている
- 目線を合わせようとしない
- 鼻面を舐める
- 姿を隠す
- 耳を頭の後ろに倒す
実は、これらは皆、犬が恐怖を感じている時に見せる仕草です。イタズラの痕跡を見て機嫌が悪くなったのを察知したり、怒り出したご家族の様子に反応した愛犬が、恐怖を感じているサインなのです。
犬は罪悪感を感じていないという研究例
2009年に犬の認知科学者であるアレクサンドラ・ホロウィッツ教授が行った研究により、犬が見せる罪悪感の表情は、悪いことをしたという認識のためではなく、ご家族が見せた態度や叱責に対する恐怖からであるということが明らかになりました。
飼い主が席を外している隙に、「おやつを食べるな」という命令に背いた犬も、従った犬も、戻ってきた飼い主に見せた表情には何の違いも見られませんでした。逆に、飼い主がその犬を叱った時には、命令に背いていなくても前述の罪悪感を思わせるような表情が見られたそうです。
ホロウィッツ教授は、「犬の脳は人間の脳と似ているが、違いがあるため思考方法は異なっているはずだ」と言います。特に、「犬は過去の行動を振り返ったり、間違えたことをしたという考え方をしない」のだそうです。
犬は嘘をつかずに今この瞬間を生きる動物
多くのドッグトレーナたちも、犬は嘘をつかず、また今この瞬間を生きている動物であると言っています。
人間の脳は大脳新皮質が発達しているため、言葉を理解し、物事を論理的に思考することに長けています。しかし、大脳新皮質があまり発達していない犬は、論理的思考よりも本能や情動による種の保存のための能力の方が優っています。
多くのドッグトレーナーは、「犬は状況と結果の関連性により物事を学習し、自分がとるべき行動を適応させていく」と言っていますが、これはまさに生存し、種を残していくためにとても大切な能力です。
この犬の学習方法を応用して、トレーナーは犬の行動に対して「ご褒美」や「無視」といった犬にとって賞罰となる反応を示すことで、犬が自分にとって利益になるような行動をとるように誘導していくのです。
この時、必ずといって良いほど言われることが、「賞罰に相当する反応は、犬がその行動を行った直後にやらなければ意味がない」ということです。なぜなら犬は、ご家族の賞罰反応と自分が数分前に行った行動とを結びつけることができないからです。
学者の研究結果や多くのドッグトレーナーにより提唱されている犬へのトレーニング方法から考えても、愛犬がいつもよりおとなしくしている、なんとなく反省したり罪悪感を感じているような表情をしているように見えても、実は自分のイタズラを隠そうとしているわけではないのだと考える方が自然なのではないでしょうか。
まとめ
私達は、相手のことを理解する時に言葉を使って思考し、自分が納得できるような理由を組み立てます。相手が同じ人間同士であっても、自分を基準に考えてしまいがちです。なぜなら、無意識に自分が納得できるような理由を組み立てようとするからです。
ましてや相手が犬であれば、どうしても擬人化して考えてしまうのは、致し方のないことなのかもしれません。ただ、擬人化することで愛犬に対して負荷をかけてしまうのであれば、それは避けなければなりません。
犬達は、長い年月をかけて、人間の気持ちを察知したり共感する能力を身につけてくれました。私達も、できるだけ犬の習性や感覚、思考プロセスなどを知ることで、お互いに気持ちよく共生できるように努力したいものです。