ノーベル化学賞を受賞した技術を犬のガン治療に応用
犬のガン治療は人間の医療へのモデルとして有望だと考えられており、数多くの研究が行われています。そしてこの度また、犬と人間の両方にとって明るい報告が届きました。
アメリカのミズーリ大学コロンビア校獣医学部の研究者が、犬の骨ガンの効果的な治療方法について研究結果を発表しました。この治療方法は『クリックケミストリー』という技術を用いたものです。
クリックケミストリーのクリックとは「カチッと」という意味です。クリックという言葉から連想するものと言えば、犬のトレーニングに使うクリッカーやPCのマウスのクリックですね。あの「カチッ」という音や感触がクリックです。ケミストリーとは化学です。
2つの分子を「カチッ」とシートベルトを締めるように結合させて、新たな化合物を効率的に作り出す反応が『クリックケミストリー』です。このクリックケミストリーの開発に対し、アメリカとデンマークの研究者が2022年のノーベル化学賞を受賞しています。
クリックケミストリーで大型犬の骨ガン治療に成功
クリックケミストリーは、ガン治療においてガン腫瘍に特異的に最大限に治療薬を送達するために用いられます。また、強い治療薬が血流中を循環して危険な副作用を引き起こすリスクを最小限に抑えることも目標としています。
しかしこの方法は、これまで小型のマウスでしか成功していませんでした。大型犬や人間では体のサイズが大きすぎて、クリックケミストリーによって治療薬を送り出す側の分子同士がお互いを見つけることができず、クリックに至らないのではないかと考えられていました。
前述のミズーリ大学の研究者はハンター大学のクリックケミストリーの専門家と協力して、体重45kg以上の大型犬5頭の骨ガンをクリックケミストリーを用いて治療、放射性医薬品を特異的に犬の腫瘍に送り込むことに成功しました。
犬の治療でわかったことが人間を助ける
体のサイズが大きすぎて効果を発揮しないかもしれないと考えられていた大型犬で、クリックケミストリーを用いた治療が機能したことは大きな進歩です。体重45kgと言えば成人に近いサイズなので、人間のガン治療への道が開ける可能性があるからです。
同研究者は2020年に、骨肉腫を患った犬自身の腫瘍からワクチンを作りガン細胞を狙い撃ちする治療方法を開発しました。
この方法の成功によって、人間のガン性脳腫瘍の治療に同様の免疫療法持ちいる研究が認められました。このように犬のガン治療は人間の治療のモデルとして実際に活用されています。
マウスやラットを使った研究と違って犬の場合は自然発生した病気の治療という点で、より実用的なデータが得られ人間の医療への応用しやすいものです。今後もさまざまな分野での研究が期待されます。
まとめ
2022年のノーベル化学賞を受賞した技術を用いた方法が、大型犬の骨ガンの治療に効果を発揮したという話題をご紹介しました。
ノーベル賞を獲るような化学技術など日常生活に無縁なことのように感じますが、犬のガン治療ひいては人間の治療に用いられると聞くと、最先端の研究も私たちの生活と地続きであることがわかります。
《参考URL》
https://doi.org/10.1021/acs.molpharmaceut.2c00220
https://showme.missouri.edu/2022/click-chemistry-may-help-treat-dogs-with-bone-cancer-mu-study-finds/