保護犬の譲渡がうまくいかないリスク因子を探せ!
動物保護施設やレスキュー団体によって保護されている犬たちが、新しい家族に引き取られて幸せに暮らすのは素敵なことです。しかし、全ての譲渡がスムーズに成功するわけではありません。
一旦譲渡されたものの、施設や団体に再度戻されてしまう犬も一定数います。保護施設に再入所することになった犬の背景を調査することで、どんな因子が譲渡先から返還されることにつながるのかがわかります。失敗の因子がわかれば、反対に譲渡を成功させるためのファクターもわかります。
オーストラリアを代表する非営利動物保護団体RSPCAクイーンズランドが、保護施設から譲渡された犬が戻ってくるリスクを調査し、その結果を発表しました。
動物保護施設向け大規模データベースを使って分析
RSPCAクイーンズランドは年間53,000頭以上の動物を保護しており、州内で11のシェルターを運営しています。この膨大な数の動物たちのデータを管理するため、同団体は『シェルター・バディ』という名の動物保護団体向けのデータベースシステムを独自に開発しました。
このシステムは各動物の基本情報の他に行動上の特性、医療情報、預かりボランティアによるフォスター経験の有無、譲渡後の脱走迷子情報など全ての履歴を管理しています。
この調査では、2019年1月1日から2020年12月31日の間にRSPCAクイーンズランドのシェルターから譲渡された全ての犬と、2021年4月1日までに譲渡先から戻されて再入所した犬が対象になりました。
シェルター・バディのデータから、性別、毛色、犬種、年齢、体重、行動と健康状態、フォスター経験と期間、シェルターにいた期間、譲渡後に戻された場合はその理由などが分析されました。
保護犬の譲渡の成功の確率を高くするファクター
譲渡後にシェルターに戻された犬は譲渡された犬全体の約15%でした。これらの犬にはいくつか顕著な因子がありました。
1.譲渡から返還までの期間
いったんは譲渡されたものの犬がシェルターに戻された事例のうち3分の2は、譲渡後2週間以内に発生していました。これは2週間以内であれば譲渡料金が返還されることに影響されている可能性が指摘されています。
この期間は犬の精神面にとっても重要であるため、返金期間の延長または返金制度の再検討が言及されています。
しかし譲渡後1〜2日で返還という例が戻された犬のうち14%(119件)もあり、今後の研究では返還した人へのインタビューなどの調査が必要だとしています。
2.犬の特性
- 月齢が3ヵ月未満の若い犬は返還される率が低く、6ヵ月以上で高くなる
- 小型犬よりも中型およびお大型犬は返還される率が高い
- 毛色がブリンドル、タン、白の犬は黒い犬よりも返還される率が高い
3ヵ月齢未満の子犬は社会化がスムーズに成功しやすいこともあり、返還率が低いことは理解できるのですが、サイズや毛色については犬側では対策のしようがありません。これも今後の研究課題のひとつで、返還した人へのインタビューなどが必要だと考えられます。
3.預かりボランティア家庭でのフォスター経験
これは今回の調査の中での有望な発見でした。預かりボランティアの家庭で一時預かりのフォスター経験のある犬は、譲渡後に施設に戻されるリスクが低くなっていました。
フォスターケアの期間は1〜2週間の短いものから3ヶ月近い例までさまざまでしたが、期間の長さに関わらず返還リスクが低いものでした。
これはフォスター期間が短くても効果があるということではなく、同団体のフォスターケアにに携わる預かりボランティアの役割が関係しています。
フォスター家庭では「譲渡が可能かどうか」を観察し、預かっている人が譲渡に適していると判断するまで譲渡対象になりません。一般家庭で過ごした上で「譲渡しても大丈夫」という判断が下されることが返還率の低さにつながっているようです。
まとめ
オーストラリアの大規模動物保護団体による調査から、保護犬の譲渡後に施設に戻されるリスクを低下させるのは、フォスター家庭でのケアを受けた経験であるという結果をご紹介しました。
過去の他の研究でもフォスターの一般家庭で暮らす経験は犬の精神を安定させ、譲渡率のアップ、返還率の低下につながることが報告されています。
このような調査結果によって得られた情報や知識は、保護団体が犬と潜在的な飼い主との適切なマッチングを行うために役立ちます。
今後は犬を引き取って飼い続けている人、引き取ったものの返還した人への聞き取り調査などから飼い主側の特性についての研究も実施していくとのことです。
《参考URL》
https://doi.org/10.3390/ani12192568
https://www.shelterbuddy.com