犬は抱っこされるのが好きではない
人間も含めて、霊長類は親が子を抱くのが当たり前です。しかし、犬は自分の子を抱きかかえることができません。
もちろん犬だけで暮らしている犬は、抱かれるという経験もありません。そもそも名ハンターでありながら、自らも獲物となり得る犬にとって、自分の行動が拘束されるような状況は歓迎できないのが当たり前でしょう。
カナダのある大学で行った調査でも、『8割の犬が、人からハグされたことでストレスや不安等を感じてしまっているようなサインを見せた』ということです。
しかし、人と一緒に暮らしている犬にとって、ご家族とのスキンシップは嬉しいことでもあります。ご家族から抱かれることに慣れている犬の中には、自ら抱っこをせがむケースも多いものです。また暮らしの中では、抱っこすることで愛犬を安全に守れるシーンも少なくありません。
抱っこをするとすぐに降りたがる時の犬の心理について考え、必要な時に、愛犬を上手に抱けるように工夫してみましょう。
抱っこしてもすぐに降りたがる時の犬の心理
1.痛みを感じている
抱かれる時に、抱いている方の腕や手が犬の体を支えます。それは安全の確保のためにも必要な行為です。
しかし力が強すぎたり、支えている部分によっては犬が痛みを感じる場合があります。特に、支えられている部位にケガ、皮膚炎、捻挫、脱臼、関節炎、内蔵疾患などがある場合は、犬はかなりの痛みや不快感を感じている可能性があります。
抱かれるのが好きだった愛犬が、急に抱かれるとすぐに降りたがる素振りを見せた場合は、痛みを疑い、かかりつけの動物病院に相談してみましょう。特に高齢の犬は、椎間板ヘルニアや関節炎にかかっていることが多いので注意深く観察してください。
2.過去に抱かれて嫌な思いをしたことがある
過去に、抱っこと結びつくような嫌な思い、辛い思いをしたことのある犬は、それ以降抱かれるのを嫌がるようになることがあります。
例えば、急に抱っこされて病院に連れて行かれた、抱っこされた時に腕から滑り落ちた、ギュッときつく抱きしめられて苦しい思いをしたなどという体験が当てはまるでしょう。
そういう場合は、抱っこと良い思いが結びつくような体験を、時間をかけて繰り返し行い、抱っこに対する嫌悪感をなくすようにしていきましょう。
3.抱っこされたい気分ではない
信頼しているご家族に抱かれており、その抱き方にも不満がなかった場合でも、愛犬自身が「今は抱かれたい気分ではない」という時には降りたがるに違いありません。愛犬にも「眠い」「喉が渇いた」など、その時々の事情があるはずです。
危険な状況から守るために抱き上げるような場合は別ですが、愛犬の様子などもよく考慮して抱くタイミングを図りましょう。
4.抱いている人を信頼していない
信頼しているご家族に抱かれているのであれば、愛犬も安心できるでしょう。しかし、よく知らない、信頼していない人に抱かれる場合は、嫌がることが多いでしょう。
私達人間も、よく知らない人からいきなり抱きつかれたら、逃れようともがくはずです。まずは信頼関係の構築が基本です。
5.抱き方が不適切なので不安である
抱っこというのは、そもそも地に足がついていない不安定な体勢で、動きも制約されます。愛犬にとっては快適な状態とはいえません。さらに抱く人が犬を抱くことに不慣れであったり、不適切な抱き方をしている場合、犬にとっては非常に不安で居心地が悪いことでしょう。
また、愛犬を人間の子供のように体を立たせた状態で抱く方がいます。この体勢は愛犬の背骨に負荷をかけ、脊椎等を傷める原因になります。愛犬を抱く場合には、体を立てずに背骨を地面に対して水平になるように抱き上げましょう。
愛犬を抱っこに慣らした方が良い理由
基本的に抱っこは犬にとって快いことではありません。しかし、必要な時には愛犬を抱っこできるように、普段から慣らしておいた方が良い場面もあります。
大型犬を抱き上げるのは難しいでしょうが、将来的には必要になるシーンもありますので、できるだけ子犬の頃から「触れる」だけでなく「抱っこできる」ような練習もしておくことをおすすめします。
愛犬を抱っこした方が良いシーンや良い効果を、下記にまとめます。
- ワクチン接種完了前の子犬に対する慣らし散歩としての抱っこ歩き
- 人や車などが多い危険な場所を通る場合の抱っこ歩き
- 愛犬が他の人や犬に危害を加えそうになった場合の引き止め抱っこ
- 加齢や病気で介護が必要になった場合のお世話における抱っこ
- 緊張している愛犬を落ち着かせるための抱っこ
- 震災や火事などから避難する際の抱っこ
まとめ
中には抱っこが大好きな犬もいるでしょう。しかし多くの犬は、自分の行動が拘束され、不自然で不安定な体勢を強いられることの多い抱っこにストレスを感じています。それでも、人間社会の中で安全に暮らしていくためには、愛犬を抱っこした方が良い場合も少なくありません。
愛犬が不快に思わない正しい抱き方を学び、愛犬の気持ちや体調にも配慮をした上で、安全で少しでも気持ちよく抱かれてもらえるように、工夫をしたいものです。