犬は人間の能力の違いを判定するだろうか?
犬の素晴らしさの表現のひとつに「犬はあなたのことを評価しない」というものがありますが、本当にそうなのでしょうか?
京都大学による過去の研究では、犬は飼い主に対して非協力的な人よりも協力的な人の方を好むという実験結果が報告されています。
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2015-06-12
これは犬が人間の行動に基づいて「この人は飼い主を助けてくれる人(または助けてくれない人)」として評価や判定をしたと言えます。では、人間の行動ではなく能力についてはどうなのでしょうか?
上記の研究と同じ研究者によって、犬が人間の能力レベルを判定するかどうかを実感した結果が発表されました。もしかしたら「あ!」と思い当たることがあるかもしれません。
有能な人とそうでない人を犬に判定させる実験
実験には30頭の犬(メス19頭、オス11頭)が参加し、次のような内容で行われました。
実験者が2人並んで座っています。犬は飼い主と一緒に2人の実験者の前に座ります。実験者のそばにはそれぞれ3つずつの同じタイプのフタ付き容器が置かれています。実験者はこの容器のフタを開けるというタスクに対して「有能役」と「無能役」の演技をします。
有能役の人は容器を手に取ると2秒以内に簡単にフタを開けます。一方、無能役の人は容器を手に取るがフタを開けるのに苦心して5秒経っても結局開けることができません。2人の実験者は2つ目の容器を手に取って同じことをもう一度行います。
3つ目の容器を手にした時、犬は実験者に自由に近づくことが許されます。この時の容器の中には何も入っていない状態です。容器は透明で、中が空っぽであることが犬にも見えます。
次に別の30頭の犬(メス18頭、オス12頭)で全く同じことを実験します。ただしこの時は透明の容器の中に食べ物が入っています。食べ物なしと食べ物あり、どちらの条件の実験も録画して犬たちの行動が分析されました。
メス犬が示した「判定」の能力
2つの条件のうち容器に食べ物が入っていなかった場合には、3つ目の容器を手にした段階で、犬が自分の意思で「有能役」の人に近づいた割合は30頭中13頭とほぼ半々でした。メス犬の場合は19頭中6頭が、オス犬は11頭中7頭が「有能役」の人に近づきました。
しかし、容器に食べ物が入っていた場合の結果は明白でした。3つ目の容器を手にした段階で30頭中21頭の犬が「有能役」の人に近づきました。
メス犬の反応はさらに顕著なもので18頭中15頭が「有能役」の人に近づきました。オス犬は12頭中6頭と食べ物なしの条件と大きな差が見られませんでした。
食べ物あり条件のメス犬は、近づくことを許される前の段階から「有能役」の人を有意に長く見つめていました。
これらの結果は、メス犬は人間の運動技能のレベルの違いを判定することができ、その判定が状況に応じて犬の行動に影響を与えることを示しています。このような評価判定の能力は、協力者が必要な状況でパートナーを選ぶ際にも役立つと考えられます。
またこの実験結果が示したように、犬の評価判定能力における性差についてさらに多くの研究が必要であると研究者は述べています。
まとめ
容器のフタを開けるというタスクについて有能な人と無能な人を犬に観察させると、メス犬は食べ物が入っているフタを開ける能力のある人に長い時間視線を向けて近づいて行くという結果が示された実験をご紹介しました。
今後の研究課題は、容器のフタを開ける以外の運動技能、信頼性、知識などについても犬が判定することができるかどうかだそうです。犬は人間が想像するよりももっとたくさんのことを理解しているのかもしれませんね。
《参考URL》
https://doi.org/10.1016/j.beproc.2022.104753
https://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-11327199/Female-dogs-judge-make-mistakes-study-finds.html