犬の寿命が伸びて、シニアのための検査方法が必要に
住環境や食事の変化、獣医療の発達によって家庭犬の寿命はこの数十年で大きく伸びています。寿命が長くなったことに伴って、以前は見られなかった健康上や行動上の問題が現れ、それらについての研究も増えています。
ここで言う問題とは、各種のガンや老化に伴う認知機能障害などが当てはまりますが、数十年前はこれらの症状が出るほど長生きする犬はほとんどいなかったのです。
高齢になった犬に特有の行動や認知を知るためには、正確で信頼できる検査方法が必要です。
このたびハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の動物行動学の研究チームが、加齢に伴う記憶や行動の変化を観察検査するための有効なテスト方法を特定したと発表しました。
シニア犬の行動検証に最適なテストを探せ!
この研究には一般から募集した38頭の家庭犬が参加しました。38頭のうち20頭は平均年齢2.7歳(中央値3歳)の若い犬たちで、18頭は平均年齢11.8歳(中央値11歳)の高齢の犬たちでした。
犬たちの犬種はさまざまで、雑種が14頭と純血種が24頭でした。犬たちは実験室で6種類のテストを受け、その結果からテストの有効性が測定されました。
最初のテストは、初めての環境を探索することへの興味と活動量が測定されました。飼い主とリードを付けた犬がいっしょに部屋に入り、飼い主が所定の位置に1分間留まっている間の犬の行動が観察されました。
2番目は、見知らぬ人に対する犬の社交性を測定するものでした。犬にとっては初対面の実験者が犬に挨拶し、犬の方から近寄った場合にボール遊びや綱引きなどで交流を持ちました。
その間に2つのうち1つの容器を違う色と形のものに交換し、犬が部屋に戻って再度1分間の探索をする様子が観察されました。
4番目は、課題に対する持続性を測定するものでした。犬はドライフード20粒を入れたコングを与えられ、自分で工夫してフードを回収し食べました。次に犬が自力では取り出せない大きさのトリーツを、同じコングに入れて行動が観察されました。
どちらの場合も時間は1分間で、どの犬もこの種のおもちゃを使った経験がありませんでした。
5番目は、短期の空間記憶の違いを見るものでした。部屋の床に5つの同じ容器が半円状に並べられ、そのうちの1つにトリーツが入っています。犬は探索してトリーツを食べることができます。
犬を一旦外に出して同じ位置の容器にトリーツを入れ同じことを繰り返します。テストは1頭につき5回行われました。
6番目のテストは、初めて見るものに対しての好奇心と恐怖心が測定するものでした。床の上に電池で動く犬のおもちゃを置き、犬の反応が観察されました。次に同じ種類のおもちゃで色と鳴き声の違うものを置き、同じように観察しました。
若犬とシニア犬で明確な違いがあったテスト
6つのテストのうち、1番目の初めての場所の探索と2番目の見知らぬ人への社交性、4番目のコングを使った課題への持続性については、若い犬のグループとシニア犬のグループに有意な違いは見られませんでした。
つまりこれらのテストは、シニア期以降の犬の行動や認知の検証には不向きであると結論づけられました。
3番目の見慣れない物体への行動と短期記憶のテストでは、若い犬のグループは色と形の違う容器が出てきた時には、目新しいものから先に近づいて探索する行動が多く見られました。
シニア犬のグループも色と形の違う容器が新しいものであることは認識していましたが、近づいて探索する行動は若い犬よりも少なくなっていました。
このテストでは目新しい物体に対して、加齢による好奇心や意欲の低下は示されましたが認知の低下は確認されませんでした。
5番目の5つの容器のうちの1つにトリーツを入れた短期の空間記憶のテストでは、若い犬に比べてシニア犬グループでは、間違った容器のところに行った回数が有意に多いことが観察され、加齢による短期の空間記憶の低下が確認されました。
6番目の電池で動くおもちゃ犬への反応では、若い犬のグループはおもちゃを避ける時間は短くおもちゃ犬で遊ぶ行動が長く見られました。
一方シニア犬は、若犬に比べておもちゃ犬を回避している時間が’有意に長いことが示されました。回避は恐怖や不安の現れで、犬における回避行動は加齢と共に増えることが知られています。
加齢に伴う犬の行動や認知の変化を検証するためには、5つの容器を使った短期の空間記憶テストと、電池で動くおもちゃなど犬にとって新奇なものへの反応を見るテストが有効で信頼性が高いことが示されました。
まとめ
シニア犬のための行動検査として「短期の空間記憶テスト」と「目新しい物体への回避行動テスト」が有効であるという研究結果をご紹介しました。
犬と暮らす人が知っておきたいのはどのテストが有効かということよりも、犬もシニアになると短期の空間記憶が低下するということ、見慣れない新しい物体に対して若い頃よりも恐怖や不安を強く感じるようになるということです。
記憶など認知機能に変化が出始めるのは、エトヴェシュ・ロラーンド大学の以前の研究では9歳が目安になるとされています。
目新しいものに対して恐怖や不安が強くなる理由は、神経疾患、感覚の低下、代謝の変化、体の痛みなどさまざまですが、理由を突き止めるためには恐怖や不安が強くなっていると知ることがまず第一です。
犬の加齢は人間よりもずっとスピードが早いため、私たちはついつい若い頃と同じ行動を求めがちです。愛犬に過剰な負担をかけないためにも、飼い主が知っておかなくてはいけないことがありますね。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-022-19918-7