犬への生肉給餌について獣医師への提言
犬に与える食事と言えば栄養のバランスや手軽さの面でドライフードが主流ですが、加熱していない生の肉を与えているという飼い主さんも少なくありません。
BARFダイエットなど栄養バランスを整えた生食フードも販売され、愛犬に生肉を与える食事スタイルは主流ではないものの定番のひとつにもなっています。
しかしこの数年、ヨーロッパの研究機関を中心にして、市販の生食用フードの細菌、ペットの生食による抗生物質耐性菌の蔓延などを問題視する研究も数多く発表されています。
そのような中、イギリスの獣医学専門誌に犬に生肉を与えることについての獣医師向けの注意喚起の記事が掲載されました。
イギリスの獣医師協会からの注意喚起
獣医学専門誌Vet Record誌に掲載された記事は、英国王立獣医師協会の小動物臨床栄養学の専門家マイク・デイヴィーズ氏による警告を紹介するものでした。
デイヴィーズ氏はイギリスの獣医師に対し「もしあなたが獣医師として飼い主に生肉の給餌を勧め、生肉に関連するサルモネラ菌などが原因で飼い主やその家族が病気になった場合、あなたは法的な責任を負う可能性があります」と注意を呼びかけています。
顧客である飼い主に生肉の給餌を勧める場合に、犬がサルモネラ菌、カンピロバクター、大腸菌、リステリア菌などに感染し、さらにそこから人間に感染するリスクがあることを説明しなければ、飼い主が訴訟を起こした際に獣医師の責任が問われます。
リスクを説明し、その上で飼い主が納得して生肉給餌を行なった場合には両者に責任があったことになります。
獣医師が自分自身を守るために、顧客である飼い主がペットに与えている食事内容の履歴を聞き取って記録しておく必要、生肉給餌などは飼い主がリスクを認識していることを確認する署名を求めることなどの注意が促されました。
イギリスには生肉食を推奨する獣医師や獣医看護師の協会もあるそうですが、この協会も感染症の発生など、公衆衛生上の問題が起きた場合に獣医師が責任を負うリスクを認めているとのことです。
アメリカでは生肉給餌に対してさらに厳しい対応
上記のように、イギリスの獣医師に対して生肉給餌への慎重な姿勢が呼びかけられていますが、英国獣医師協会および英国小動物獣医師協会はペットへの生肉給餌そのものには反対を示していません。
獣医師が生肉給餌を勧める場合にはきちんとリスクの説明をすること、飼い主が生肉給餌を始めたい場合には、獣医師に相談した上で取り扱いの衛生管理手順を守ることを強調しているだけです。
一方、アメリカの獣医師協会はペットへの生肉給餌に対してイギリスよりもさらに強い姿勢で臨んでいるようです。アメリカ獣医師協会は生肉をペットに与えることを支持しないことと、手作りの生肉食は安全ではないことを明言しています。
同国の獣医師協会は公衆衛生上のリスクを強調し、飼い主に対して生肉給餌をしないよう説得することを推奨しています。
飼い主がペットに与える食事についての「選択の自由」の問題もあるのですが、公衆衛生が脅かされるリスクは見過ごせないものです。
英国獣医師協会は生肉の給餌についてエビデンスを得るための調査を継続しており、近いうちに生肉給餌に対する立場を明確にすると述べています。
まとめ
イギリスの獣医学専門誌に掲載された獣医師向けの生肉給餌についての注意喚起の記事をご紹介しました。
爬虫類など生肉食が普通であるペットもいますが、犬は人間の手や顔を舐めたり顔を近づけることが他のペットよりも多いため、生肉を与えた時の人間側のリスクが高くなります。記事内で紹介したのは獣医師向けの内容ですが、一般の飼い主も知っておくに越したことはありません。
《参考URL》
https://bvajournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1002/vetr.2287