38年で倍近くにまで延びた犬の平均寿命
昭和40年頃の日本では、犬は家の外で暮らすのが普通でした。庭や玄関先に鎖で繋がれた犬が、新聞や牛乳、郵便等の配達員に向かって大声で吠えている光景が普通でした。
最近では、戸建でも屋外に犬を繋いでいる姿を見かけることは、ほとんどなくなりました。集合住宅が増え、戸建でも広い庭のある家が少なくなってきたこともあるかもしれません。犬も室内で家族と一緒に暮らすスタイルが主流になってきています。
あるペット保険会社が2020年に公表した調査では、犬が普段生活している環境の内訳として下記の数値が挙げられていました。
・屋内のみ … 84.3%
・屋内外 … 13.8%
・屋外のみ … 1.9%
ペットフード関連の社団法人が調査した2021年の犬の飼育頭数が710万6,000頭ですので、単純計算で13万5,014頭の犬は、終日外で暮らしていると考えられます。
上記の飼育頭数の調査の中で公表されている犬の平均寿命は、犬全体で14.65歳でした。昭和58年の同法人での調査では7.5歳だったそうですから、この38年で犬の平均寿命は倍近くに延びたことが分かります。
犬の平均寿命が延びている理由のひとつに「室内飼育が普及したたこと」がよく挙げられます。何故外飼いだと犬の寿命が縮まるのでしょうか。犬を外飼いにする際に考えられるリスクをご紹介します。
犬を外飼いにするリスク
過酷な生活環境
外飼いとはいえ、犬小屋で雨や風、日光や夜露などをしのげるようにしているはずです。
とはいえ、その環境の過酷さは室内飼育とは比較になりません。激しい温度差や温暖化の影響なども考えると、外での生活は日本発祥の日本犬ですら辛く過酷な状況だと言わざるを得ません。
感染リスク
不衛生な環境は、病気への感染リスクを高めます。屋外での生活は、愛犬をノミ・ダニ・蚊などの害虫に晒し、野生化した犬やアライグマ、ネズミなどとの接触による感染リスクを高めます。
また、室内飼いと比べると外飼いの犬には目が行き届かないのが当前でしょう。排泄の頻度、量、排泄時の様子や食欲、食べる時の様子の変化やほんのちょっとした違和感などから愛犬の体調不良に気付きやすくなる生活環境としては、やはり室内飼いに軍配が上がります。
3.事故リスク
いくら自宅の敷地内であっても、外飼いは室内飼いよりも遥かに高い事故リスクに愛犬を晒すことになります。
愛犬自らの脱走や、第三者からの虐待、悪意のあるイタズラ、誘拐などの他、野良犬などの侵入により怪我をする可能性も低くはありません。
番犬としてのストレス
庭も含めて、ご家族が暮らすエリアは愛犬にとっても自分の縄張りです。庭や玄関先で暮らしている犬は、自らがその最前線に立って家族を守っている警備兵のような立場であると自覚し、敷地内への侵入者に吠え、場合によっては噛み付いて阻止しようとします。
ご家族にとっては番犬として役に立っていますが、犬の立場に立つと24時間365日気の休まる時間がないといえます。また犬種によっては番犬に全く不向きな場合もあり、愛犬にとって重すぎるストレスとなるでしょう。
5.孤独であるストレス
昭和40年代の犬達も、もちろんご家族から愛され可愛がられていました。しかし「犬は犬」「飼う」「餌」という言葉に抵抗を感じる感覚は、今よりも少なかったでしょう。今は「犬は家族」「一緒に暮らす」「ご飯」という言葉を選択する方が多いのではないでしょうか。
人と一緒に家族のように暮らすことに適性のある犬を作ってきたのは人間です。選択的な交配が続けられ、犬は人とコミュニケーションすることを好み、人と深い絆を築くのに適した性格になりました。その犬を孤独な環境に置くことは、大きなストレスとなり問題行動を引き起こす原因にもなり得ます。
それでも室内で一緒に暮らせない場合の注意点
当然、室内飼いにしたいと思っても出来ない場合もありますよね。出張等のやむを得ない引っ越し等で住宅事情が変わり、どうしても室内飼いが出来なくなる等、意図せずに室内で一緒に暮らせなくなる場合もあるかもしれません。
ではそのような時に注意すべきポイントとはどのようなものがあるでしょうか。
健康管理
外飼いの犬の場合、室内飼いよりも多くの感染症に対するワクチン接種が必要となるでしょう。
また愛犬の健康チェックやお手入れも、外に出て行いますので行き届かない面が多くなるでしょう。外飼いの場合は、愛犬への健康管理への配慮と費用の室内飼い以上に必要になると考えましょう。
ご近所トラブルへの配慮
外飼いの犬は、ご近所トラブルになるリスクが高いです。吠え声や唸り声による騒音問題や、訪問者への噛みつき事故などが考えられます。
また場合によっては、犬の抜け毛や体臭を嫌う方もいるかもしれません。外飼いは、室内飼い以上にしつけとご近所への配慮が必要になります。
問題行動へのすみやかな対応
もし愛犬と一緒に室内で暮らせない原因が愛犬の問題行動である場合は、獣医行動診療科の専門医やプロのドッグトレーナーを探して相談してみましょう。
専門家の力を借りて問題を解決し、愛犬と一緒に室内で暮らせるようになる努力をしてみてください。
まとめ
現在の日本では、犬と一緒に暮らしているご家庭の80%以上が、愛犬の生活場所を屋内のみにしているという調査報告もあり、30〜40年前と比べればすっかり室内飼いが定着してきました。しかしまだ、約2%は外でのみ生活させているという状況のようです。
外飼いが愛犬に与える健康や事故へのリスクは非常に高く、愛犬の寿命を縮めるだけではなく過酷な環境で辛い暮らしを強いることにもつながります。また、人間が作り上げてきた「人と一緒に家族のように暮らすのに適した犬」には向かない生活環境でもあります。
とはいえ、室内飼いであれば問題がないというわけではありません。室内飼いであっても、ご家族が愛犬の様子を気にかけ、心身の健康管理やお手入れを行うことが大切なことには変わりありません。