アメリカの大新聞で紹介されていたペットの歯磨きへの抵抗
皆さんは愛犬の歯を磨いているでしょうか?巷には犬用デンタルグッズがたくさん売られており、犬の歯磨きトレーニングの話題もよく目にするので、100%ではないものの犬の歯磨きは一般的に市民権を得ているものだと私は思っていました。
しかし、先日アメリカの有力紙のひとつであるワシントンポスト紙のコラムで「ごく最近まで犬の歯を磨くなんて冗談でしょう?と思っていた」という言葉を見つけて驚きました。
コラムニストは今まで7頭の犬と暮らしてきたけれど、歯を磨いたことはなかったと書いていました。そう思っていたのは彼だけではないことを示すようにカナダでのアンケート調査やスウェーデンでのリサーチ結果を紹介し、また自分自身の周囲の人も犬の歯を磨いている人はいないとも書いています。
しかし一方でなぜ犬の歯を磨かなくてはいけないのかを紹介し、愛犬の歯磨きを始めたことも報告しています。
アメリカの大きな新聞で取り上げられる話題ですから、犬の歯磨きは私が思っているよりも認知度の低い問題なのかもしれないと思い、ワシントンポスト紙のコラムと他の国のリサーチ結果をご紹介します。
アメリカ、カナダ、スウェーデンでのペットの歯磨きへの意識
アメリカ獣医師会の会長によるとペットのデンタルケアは比較的新しい分野で、飼い主が行うホームケアはさらに歴史の浅いものだそうです。獣医師がペットのデンタルケアを定期的に取り入れ始めたのは約30年前のことだそうです。
アメリカでペットのデンタルケアについて調査したデータは今のところないそうですが、獣医師会会長はペットの歯を磨かない飼い主は多数派であると述べています。
記事の中では、スウェーデン農業科学大学の研究チームが2022年に行った調査を紹介していました。この調査は犬の飼い主へのアンケートに基づいたものですが、単に数字の統計を取っただけでなく、犬の歯を磨かない飼い主はどのように考えて「磨かない」という選択をしているのかを考察しています。
実際にはスウェーデンにおいても歯周病は3歳以上の犬で最も多い病気です。食事を噛んでいても歯石や歯周病が蔓延していること、骨を齧ることが歯の損傷につながることに意識が向いていない人が多いようです。
犬に歯磨きなど必要ないと考えている人からは「野生のオオカミや野良犬はデンタルケアなどしていない」というコメントもあったそうです。もちろん野生のイヌ科動物や野良犬はデンタルケアを受けませんが、それはかれらに歯の問題がないということではありません。
野生動物の歯の健康問題はよくあることなのだそうです。また野生動物や野良犬は家庭犬ほど長生きしないので、深刻な歯周病などが起こる前に寿命が尽きることも多いと研究者は指摘しています。
カナダでのアンケート調査は、少し古く2016年に大手ペットフードメーカーが1000人の犬または猫の飼い主を対象に行ったものです。
この調査では犬の飼い主では愛犬の歯磨きをしたことがない人は43%、愛猫の歯磨きをしたことがない人は73%でした。愛犬の歯を磨く人の場合、週に2〜3回が8%、週に1回が10%、たまに磨く(ほとんど磨かない)が24%という結果でした。
ペットの歯磨きをすることに反対だという人も4人に1人くらいの割合で、歯磨きへのハードルはかなり高いことを伺わせます。
どうして犬の歯を磨くことが大切なのか
さて、今さらではありますがなぜ犬にも歯磨きが必要なのでしょうか?
犬は人間と違って虫歯になることはあまりありません。(ゼロではありません。人間よりは低い確率ですが犬にも虫歯は起こります。)しかしデンタルケアを怠ると、とても高い確率で歯周病が起こります。
歯周病の細菌が体内に入ることで起きる病気については多くの研究結果が報告されています。心臓、肝臓、腎臓へのダメージ、認知機能障害など脳へのダメージ、痛みや不快感から来る攻撃的な行動など、歯周病が引き起こす問題は単に口が臭いということだけではないのです。
口内の衛生状態が悪くなると犬の寿命は確実に短くなり、生活の質は大きく低下します。歯石のつきやすさ、歯周病の進行などは個体差が大きく、中には歯磨きなど一切しなくても一生きれいな歯のままで過ごすことができるラッキーな犬もいます。
しかしそれは結果論であり、歯を磨かないという選択をすることは負ける確率が非常に高い危険な賭けです。大切な愛犬にそんなことはできないですよね。
歯磨きを嫌がる犬が多いことも理解できますが、ハズバンダリートレーニング(犬がケアに協力してくれるようにするトレーニング)も一般に知られるようになり、犬に優しい歯磨きトレーニングの動画などもたくさん公開されています。犬の歯磨きのことをトレーナーに相談するのも良い方法です。
塗るだけのジェル、デンタルガムなどはあくまでも補助の方法で、デンタルケアの王道はブラッシングです。あらゆる知恵や工夫を動員して、嫌がられずに歯を磨く愛犬にピッタリの方法を見つけてください。
まとめ
アメリカの新聞に掲載されていた「愛犬の歯磨きって必要なんだって!」という主旨のコラムから、ペットの歯磨きが意外と浸透していないことを示す調査結果などをご紹介しました。
私自身も愛犬の歯磨きには苦労を重ね、病院での麻酔下での歯石除去も経験し、最初の段階でもっと上手にトレーニングできればよかったなあと悔やんでいます。愛犬の健康寿命を伸ばし、脳も身体も元気で長生きしてくれるよう、愛犬の歯磨きに取り組んでまいりましょう。
《参考URL》
https://www.washingtonpost.com/wellness/2022/10/07/dog-dental-care-teeth-brushing/
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2022.878162/full
https://www.ipsos.com/en-ca/news-polls/most-95-pet-owners-brush-their-own-teeth-daily-few-brush-their-dogs-8-or-cats-4-teeth-daily-basis