インドのヴァドダラ市が取り組んだ野良犬問題改善プログラム
アメリカには非常に大規模な動物保護団体が複数ありますが、その中でも屈指の存在であるHumane Society of the United States(HSUS 米国動物愛護協会)という団体があります。
そのHSUSの国際部門であるHumane Society International(HSI 国際動物愛護協会)は、世界各地で地元の人々と協力し合って動物福祉の改善に取り組んでいます。
HSIインドもそのような活動に取り組んでおり、先頃数年来の野良犬対策プログラムの報告が発表されました。
インドは路上で暮らす野良犬が多いことがよく知られています。地域によっては野良犬たちは人々から餌をもらいのんびりと暮らしていることもあるのですが、別の地域では人々から嫌われ過酷な生活を送っている犬たちもいます。
インド北西部のグジャラート州第2の都市であり、文化の中心地でもあるヴァドダラ市は路上で暮らす犬たちにとって厳しい場所のひとつでした。HSIの報告によると、かつてヴァドダラの野良犬の多くが1歳になる前に命を落としていたと言われています。
このような状況を改善するため、HSIがヴァドダラの地元政府と協力して実施したプログラムをご紹介します。
長期的な改善には地域住民への教育と理解が不可欠
虐待や病気によって命を落とす犬が多く、野良犬にとっても地域住民にとっても不衛生で厳しい状態を改善するためのプログラムは2017年に着手されました。
不妊化手術やワクチンだけでなくプログラムに教育が含まれている理由は、長期的な変化をもたらすためには人々の犬に対する見方を変える必要があると考えたからです。
HSIは犬の不妊化手術の専門医、獣医療看護師、地元動物管理官、地域の活動家によるチームを結成しました。
医療チームや動物管理官は犬を捕獲して診察、ワクチン接種、手術などを担当。犬に関する苦情を受け付けるホットラインを設置し、地域活動チームが現地に赴いて苦情の電話をかけてきた人と話をしたり面談を行うという役割分担が成されました。
地域活動チームは一軒一軒近隣の住民と話をしに回ったり、犬の行動を理解するためのワークショップ、野良犬の問題を話し合う地域会議などを開催しました。
犬に噛まれないためにはどのように行動するべきか、不妊化手術やワクチン接種の意義、犬の餌や水を置く場所の工夫などが地域住民に浸透していきました。
5年の間に起きた見事な成果
2022年現在、このプログラムは見事な成果をあげています。プログラム開始以来不妊化手術を受けた犬の数は23,696頭にのぼりました。市内の全ての犬の86%が不妊化手術とワクチン接種を受けたことになります。
そのため現在では、路上で子犬の群れを見かけることはほとんどなくなったということです。病気や怪我でボロボロになって歩いている犬も激減したそうです。
犬だけでなく地元住民の福祉も改善されました。犬に関する苦情は60%以上減少し、その内容も変化しました。
プログラム開始時は、路上の犬が迷惑だ、吠えてうるさい、住民を追いかけて怖いなどの苦情がほとんどでしたが、現在は未手術の犬がいるがどうすれば良いかというような相談の電話がメインになったそうです。
HSIはヴァドダラでの役目を終え次の場所に移るそうですが、地域住民を巻き込み教育に力を入れたため、今後は地域活動チームと自治体の協力でプログラムの持続が可能になっています。
まとめ
インドのヴァドダラ市で、国際動物愛護協会が地元政府と協力し合って野良犬と地域住民の福祉改善に成功したという話題をご紹介しました。
一見遠い外国の話で、私たちの日常とはかけ離れた世界の話に感じられるかもしれません。しかし犬の福祉を改善するためには人間への教育が不可欠で、教育によって長期的に改善された状況は人間の福祉も向上させるというのは、思い当たる点も多く深く考えさせられます。