犬をモチーフにした社会性ロボット開発のための調査
近年のロボット開発の技術の進歩はめざましく、さまざまな分野でロボットが活用されています。そのようなロボットの活用分野のひとつに、人間の孤独感や加齢に伴う問題をサポートする存在としての社会性ロボットがあります。
人間と関わり合って社会的なつながりを作り、維持することが社会性ロボットの役割です。従来この役割はコンパニオンアニマルとして犬が果たしている場合が多いため、犬をモチーフにした社会性ロボットの開発の可能性が探られています。
イギリスのグラスゴー大学の神経科学心理学研究所とエディンバラ大学の社会科学部の研究チームは、社会性ロボットの開発に先立って人と犬のつながりをより深く理解するためのアンケート調査を実施しました。
人との絆を強くする犬の行動を飼い主に質問
調査への参加者は複数のソーシャルメディアを通して「現在犬を飼っている人」という条件で募集され157名が調査のためのアンケートに回答しました。
アンケート調査には、ペットに対する感情的愛着を測定するために開発された23項目に対して5段階(強く同意する〜全く同意しない)で回答するパートと、回答者が自分の言葉で自由に記入するパートがありました。
感情的愛着を測定するための質問項目には「私にとって犬は(親友や家族と言うよりも)単にペットだと思う」「犬と私はとても親密な関係にある」などがありました。
自分の言葉で自由に記入する項目は「あなたの犬の行動のうち、あなたが本当に好きだと感じる感じるものを記述してください。具体的には、あなたと愛犬との絆を深くするために重要だと感じる行動です。」というものでした。
また回答者には、自分との絆を深くすると感じる犬の行動のビデオクリップを添付するというオプションも与えられました。これに対し18%の人が愛犬のビデオクリップを添付しました。
ロボットのシステムに変換が考えられる犬の行動
研究者チームは調査の前には回答を「犬への愛着が強いグループ」と「愛着が弱いグループ」に分けて分析する予定だったのですが、集まった回答はほぼ全員が犬への強い愛着を示していました。
記述式の回答を分析した結果は、飼い主が犬との絆を築くために重要だと感じている行動が次の7つのカテゴリーに分類されました。
1.アクティビティの共有
65%が犬と人が何かを一緒にすることに言及していました。散歩、ジョギング、アジリティ、ボール遊び、綱引き、一緒にソファーでリラックスなどその内容はさまざまです。
2.距離の近さ
57%が犬との物理的な距離の近さを重要視していました。犬が飼い主と近い距離に居たいためについて歩くことや、同じ場所で寝ることなどが挙げられました。
3.コミュニケーション
57%が犬とのコミュニケーションに言及していました。犬が助けを求めたり何かをねだる時に目線を送ったり、飼い主の言葉やジェスチャーを理解して反応することなどが挙げられました。
4.身体的な接触
36%が犬が飼い主に体の一部または全身をぴったりくっつけてリラックスしたり甘えたりすることに言及しました。
5.一貫性
44%が犬の一貫性のある行動について述べていました。帰宅した時に必ず喜んで出迎える、一緒にいるといつも嬉しそうなどが挙げられました。
6.積極性と熱意
33%が犬の積極的で熱意のこもった行動に言及していました。飼い主の顔を見ると喜んで飛びついてくる、尻尾をブンブン振るなどが挙げられました。
7.同調
11%が犬が飼い主の気持ちや日常生活に同調していることに言及しました。落ち込んでいる時に察知して寄り添ったり、毎朝飼い主が起きる時間になると隣に来るなどが挙げられました。
上記のような7つのカテゴリーの行動をロボットのシステムに取り入れることで、社会性ロボットは犬との絆と同じような充足感や精神的な健康をもたらすことが可能だと考えられます。
次の段階では、本物の犬の行動を取り入れてプログラムされたロボット犬と人が対話する実験を行うことが考えられています。
まとめ
社会性ロボットを開発するために、犬の飼い主を対象にして行った「愛犬との絆を強くする行動」についてのアンケート調査の結果をご紹介しました。
研究者は「犬の行動のすべてをロボットにモデル化することは容易ではないが、この調査結果はコンパニオンアニマルのようなロボットの開発に取り組む人々に刺激的な洞察を与えてくれた」と述べています。
回答者が挙げた愛犬の行動のどれもが「わかるわかる〜」と思わせられるもので、確かにこのような行動をする犬型ロボットが開発されると魅力的ですね。
《参考URL》
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0274353