野良犬は、犬と人間の関係を理解するためのモデルになり得る
犬の学名はCanis lupus familiarisと言います。チワワもグレートデーンも飼い主のいない野良犬もすべてCanis lupus familiarisです。
この学名で分類されるイヌは世界中で約9億頭いると見積もられており、そのうち50〜80%が決まった飼い主のいない犬だと言われています。数字に非常に幅があるのは、飼い主がいるかいないかが曖昧で線引きできない場合も多いからです。
これら飼い主がいない犬は、野良犬、ストリート犬、放し飼い犬、集落犬、野犬など様々な名で呼ばれています。飼い主が決まっていないと言っても、これらの犬のほとんどは人間と深く関わり合っており、社会を構成する一部になっていることが多いのです。
そのため野良犬や集落犬は、家畜化につながる人間と犬の関係の発展の過程を理解するための非常に良いモデルとなると考えられます。
インドには路上で自由に暮らす犬が多いのですが、同国の3人の生物学者がインドのストリート犬たちの行動生態を長期に渡って研究しており、このたびその一部が報告されました。
インドの3つの都市でランダムに犬を観察
インドには最も古い犬種のひとつであるパリア犬というインド原産の犬がいます。パリア犬は古代には人に飼われていたと考えられますが、野生化して固定された犬種です。
パリア犬と現代の多くの家庭犬との大きな違いは、人間の選択的な品種改良が行われず自然に進化してきたと言う点です。そのためインドやその他の南アジアの暑さにも適応しており、最も健康な犬種としても知られています。
現代のインドの路上で暮らしている犬の大半はパリア犬またはパリア犬系統です。他の国で人間に捨てられて野生化した野犬(本来そこにいるべきではない)と、路上生活に適応して進化してきたパリア犬には大きな違いがあることを研究者は強調しています。
路上の犬たちの観察は2008年から2011年にかけて、3人の研究者が3つの都市で実施しました。決められた範囲内でランダムに道を選び、見かけた犬のおおよその年齢、性別、行動、発声が観察記録されました。
犬たちは午前の早い時間に最も活発に行動し、暑さを避けるため日中は休息、夕方に再び行動を始めます。研究者もこのスケジュールで行動し、犬の姿が見えにくくなる日没7時30分ごろにその日の観察を終了としました。
犬を目撃した時の行動と共に(歩いている、寝ている、食べている、など)その時の活動レベルも記録され、犬の行動のうち、何が彼らの生活の中で大勢を占めていたかが集計されました。
路上でリラックスして暮らしている犬たち
このようにして合計1,941件の犬の行動が観察記録されました。場所、年齢、性別による犬の行動には大きな違いはありませんでした。
意外に思われるかもしれませんが、路上で生活している犬の生活は家庭で飼われている犬と大差ないものでした。
記録された行動のうち53%が「眠っている」「座っている」「寝そべっている」といった活発ではないリラックスしたものでした。
16%が単独またはグループで歩いている行動で、飲食、匂いを嗅ぐ、体を掻く、排泄などの生命を維持する活動は6%未満でした。他の動物(犬、人間、猫、牛など)との関わり合いは約10%でした。
犬と人間との関わり合いは32件観察されており、このうち犬が人間に対して攻撃的なものは1件も無く、ほとんどの場合が尻尾を振ったり食べ物をねだるという行動でした。
研究者は路上で暮らす犬たちについて「のんびり暮らしている友好的な動物。人間との関わり合いではおとなしく従順な態度が一般的」と結論づけています。
まとめ
インドの生物学者が路上で暮らす犬たちの生態や行動を観察記録した研究結果をご紹介しました。
インドでは野良犬に餌を与えて可愛がっている人も多い半面、厄介な存在または脅威であると考えている人も少なくないのだそうです。研究者はこの報告が人々が野良犬に対する見方を変える助けになることを期待しています。
野良犬を排除しようとして乱暴に扱う人が増えると、犬は「のんびりした友好的な動物」から「厄介で脅威となる危険な動物」に変わるからです。
日本で野良犬と関わり合う人はほとんどいませんが、家庭犬であっても人間が犬をどのように扱うかによって生み出される結果が変わるというのは心に留めておきたいことです。
《参考URL》
https://www.jstor.org/stable/24102275?mag=how-street-dogs-spend-their-days#metadata_info_tab_contents
https://daily.jstor.org/how-street-dogs-spend-their-days/