犬に多い皮膚トラブル
2015年の某ペット保険会社の保険金支払いデータの件数を見ると、1位が「外耳炎」、2位が「皮膚炎」、4位が「膿皮症」、9位が「アレルギー性皮膚炎」と、上位に皮膚関連のトラブルが並んでいます。
皮膚のトラブルは、被毛に覆われてはいるものの比較的ご家族の目に入りやすいですし、かゆみを伴う場合は犬の行動からも気づきやすいといった面があるからでしょう。
特にかゆみは、体の異常を知らせるサインで、異常が起きている場所にひっかきたくなるような不快な感覚を起こし、取り除かせることが目的であると考えられています。
今回は、皮膚トラブルの中でも特に「かゆみ」に着目し、犬が自分の体をかく時の心理や注意すべき病気についてご紹介します。
犬が自分の体をかく心理とは
まずは犬が自分の体をかいてしまう心理について、その理由を考察してみましょう。
1.かゆみへの反応
体の異常により生じたかゆみを鎮めようとしています。
犬はかゆみを感じた場合、直接ひっかくという行動をとる他に、舐める、吸う、噛む、こする、いつまでもグルーミングし続けるというような行動も取ります。
また外耳炎のように耳の中にかゆみがある場合は、頭を振ったり首や耳の裏側のあたりをかいたりすることもあります。
2.退屈しのぎ
長時間の留守番や、ご家族が忙しくて目の前にいるにも関わらず放っておかれているような場合、犬は実際にかゆみを感じているわけではなくても、退屈しのぎに自分の足先などを舐め続けることがあります。
舐め続けているうちに皮膚がただれてしまい、その結果かゆみが生じ、さらに舐めるという悪循環が生じ、皮膚炎や脱毛に発展することも少なくありません。
3.自分の気持ちを落ち着けようとしている
私達人間は、よく困った時に頭をかくことがあります。それと同じように、犬も困惑したり葛藤したりした場合に、「転位行動」といってその困ったり葛藤している対象とは無関係の行動をとることがあります。その行動の中に、かいたり舐めたりといった行為も含まれます。
「なぜ今?」というようなタイミングで一過性にかいたり舐めたりした場合は、実際にかゆみを感じているわけではなく、自分の気持ちを落ち着けようとしている転位行動の可能性が高いでしょう。
かゆみの強さの見分け方
犬は、自分の病状や不快感を直接的に伝えることができません。そのため、診察においてはご家族への問診が非常に重要な役割を担います。
動物病院の診察時では、かゆみが始まったのはいつからか、どこをかゆがるのか、かゆみの強さはどのくらいかといったことをご家族が説明しなければなりません。
中でもかゆみの強さについては、特に判断に迷うところでしょう。そこで、かゆみの強さの見分け方をご紹介します。
重度
ご家族が制止してもおさまらずに、継続してかき続けるレベルのかゆみです。
動物病院やトリミングサロン、散歩中など、いつでもどこでもかくという行動が出続けます。
特にノミやヒゼンダニの感染によるかゆみは非常に強く、突発的に強いかゆみが起きることもしばしばです。
中等度
重度のかゆみほどではありませんが、犬の生活の質を明らかに落とすレベルのかゆみです。
かゆみのために、犬は眠れなかったり、散歩や食事中にもかゆくて我慢できずに、かく行動が出るといったレベルです。
軽度
かく行動は出るものの、生活の質を落とすほどではないレベルのかゆみです。そのため、散歩や食事中にかゆみが出てかき始めても、ご家族が制止すればやめられます。
犬が体をかいている際に注意すべき病気とは
前述したように、犬が体をかいていたとしても。必ずしも病気と直結するわけではありません。しかし、中には病気の症状でかいている場合もありますので、くれぐれも注意が必要です。
ここからは、犬が体をかいている際に注意すべき病気について解説いたします。
重度のかゆみが見られる場合
重度のかゆみが認められ、かつ背中から腰にかけてかき壊しやかさぶたが見られる場合は、「ノミアレルギー性性皮膚炎」の可能性があります。ノミの予防薬を定期的に投与していない場合は可能性がさらに高くなります。
同じく重度のかゆみが認められ、かつ耳・お腹・足に赤みやブツブツ、フケが見られる場合は、「犬疥癬」である可能性が高いでしょう。人にうつる可能性が高い病気です。
中等度のかゆみが見られる場合
中等度のかゆみが認められ、皮膚が重なっているような場所にベタベタ、赤み、フケが見られる場合は、「マラセチア皮膚炎」や「脂漏症」である可能性が高いでしょう。
中等度のかゆみが認められ、背中・お腹にブツブツ、膿、かさぶたが見られる場合は、「膿皮症」である可能性が高いでしょう。
中等度~重度のかゆみが認められ、顔・脇・足・お腹に赤みやかき壊しが見られる場合は、「アトピー性皮膚炎」や「食物アレルギー」である可能性が高いでしょう。
軽度のかゆみが見られる場合
軽度のかゆみが認められ、顔・足に腫れ、脱毛、フケが見られる場合は、「毛包虫症」である可能性が高いでしょう。
軽度のかゆみから始まり、やがて全身に広がる赤み、脱毛、フケが見られる場合は、「皮膚糸状菌症」である可能性が高いでしょう。人にうつる可能性が高い病気です。
かゆみを伴う脱毛
一般的に、、感染を伴わない脱毛症にはかゆみが伴わないことがあります。しかし、犬がしきりに同じ場所を繰り返し舐めて脱毛してしまった場合は、「心因性による舐性皮膚炎」である可能性が高いです。
退屈させてしまってはいないか、生活環境に改善する余地がないかなどを振り返ってみてあげましょう。
まとめ
皮膚のトラブルは、ご家族が行う日頃のケアで予防できるものが多いです。特に日々のブラッシングは大切です。短毛種であっても、毎日ブラッシングをしながら愛犬の皮膚の状態をチェックする習慣をつけるようにするとよいでしょう。
また、愛犬の行動にはよく注意をはらい、かゆがっている様子がないか、落ち着いて休める場所があるかなど、常に住環境も含めてよく観察し、快適な環境を整備できるように心掛けるとよいでしょう。
かゆみは直接命に関わる症状ではないかもしれませんが、愛犬の生活の質を大きく低下させる要因です。愛犬が快適に過ごせるよう、かゆみや皮膚の状態にも気を配りましょう。