犬の悪性腫瘍の遺伝子を分析
犬の悪性腫瘍は死因のトップに来る重篤な病気です。中でも軟部肉腫は犬の悪性腫瘍の一般的なものです。軟部肉腫とは、筋肉、腱、脂肪、血管、リンパ管、関節、神経などの軟部組織に発生する悪性腫瘍です。犬の場合、皮膚と皮下組織に最も多く見られます。
これら軟部肉腫は、その形態や原発部位(最初にガンが発生した部位)、増殖特性がよく似ているため、外科的手術による切除と放射線療法というほぼ同じ方法で治療されますが、治療が効果を示さないことも少なくありません。
このたびアメリカのワシントン州立大学獣医学部の研究チームが、次世代シーケンサー技術(数千から数百万ものDNA分子を同時に配列決定することができる技術)を使って、最も一般的な3種類の腫瘍の遺伝子構造を分析した結果を発表しました。
軟部肉腫の腫瘍のサブタイプを区別する新しい方法
ガン細胞が持つ遺伝子の特徴によって腫瘍を分類したものをサブタイプと呼びます。軟部肉腫のさまざまなサブタイプは、病理学の専門家でさえ見分けがつかないほど類似しているのだそうです。
これまでの研究では軟部肉腫のサブタイプを特定するための遺伝子マーカー(ある特定の遺伝形質、この場合は腫瘍のサブタイプに対応し、その目印となるDNA配列)に焦点が当てられていました。
この研究では、保存された腫瘍の病理組織16サンプルについてRNAシーケンス解析を用いて、何千もの遺伝子とその発現パターンが検討されました。
この解析結果から得られたデータを用いて腫瘍のサブタイプの分類、タイプ間の比較、腫瘍の形成に関連する遺伝的変化などを決定するための計算フレームワークを提供することが可能になりました。
軟部肉腫のサブタイプ分類が意味すること
上記のような研究は、軟部肉腫の遺伝子発現パターンを調査、サブタイプを分類、腫瘍の転移や浸潤(ガンが水が浸み込むように周辺の臓器や組織に広がること)などを起こす仕組みを理解という初めてのものです。
これらのことが明らかになったことで、腫瘍のサブタイプ別のより有効な治療方法を特定できる可能性が示されました。今回の発見を検証し治療に適した薬剤を特定するためにはさらに研究が必要とのことです。
軟部肉腫という治療の難しい病気について、今までとは違うアプローチの治療方法が見つかる可能性が示されたのは明るいニュースです。
まとめ
治療の難しい悪性腫瘍である犬の軟部肉腫について、腫瘍の遺伝子分析をすることでサブタイプの特定ができるという研究結果をご紹介しました。研究はさらに続けられ、タイプ別の効果的な薬剤の特定など治療方法の改善に役立てられる可能性が示されています。
犬の死因の中で悪性腫瘍は常に上位に来るものです。研究者は実際に効果的な治療方法を確立するためにはさらに数年の研究が必要であると述べていますが、文字通り犬の生命を救うための研究がこのように行われていると知ると、安心と感謝を強く感じます。
《参考URL》
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0273705
https://news.wsu.edu/press-release/2022/09/14/genetic-discovery-could-lead-to-better-treatments-for-common-tumor-in-dogs/