犬の肥満について飼い主の認識を調査
家庭で飼われている犬の体重管理は世界の多くの国で問題視されています。犬の肥満は人間と同じく糖尿病や心臓疾患につながりやすく、関節の障害も起こりやすくなります。
獣医学や生物学の研究者は犬の肥満は食事、運動、犬種など犬の体重に影響を及ぼす要因について調査を行って来ました。しかし過去に行われたそれぞれの調査は、全てある1つの国のみを対象にしたものでした。
この度、カナダのゲルフ大学の動物生化学の研究チームがフランス、ドイツ、イギリス、カナダ、アメリカの犬の飼い主を対象に、飼い犬の体重についての認識に関するアンケート調査を行い、その分析結果を発表しました。
欧州と北米5カ国の飼い主へのアンケート調査
アンケート調査への参加者は市場調査の会社によって募集され、各国の人数や性別がほぼ同じになるよう設定されました。
今回の調査では参加者の条件のひとつに「飼い犬の食事はドライフードのみを与えている」というものがありました。これは他の因子の影響をわかりやすくするためです。対象国のフランス、ドイツ、イギリス、カナダ、アメリカはヨーロッパと北米のドッグフード消費大国として選ばれました。
アンケート調査は、飼い主と犬の属性(年齢、性別、人種、犬種など)、飼い主および犬の食事、飼い主および犬の運動習慣、犬のアレルギー、犬の体重、ドッグフードの購入習慣など69の質問から構成されていました。
また、愛犬の体重について「理想的な体重だと思いますか?」「獣医師も含めて誰かから、犬が太りすぎだと言われたことがありますか?」というイエスまたはノーで回答する項目がありました。
この調査のユニークな点は犬の食事や運動習慣だけでなく、飼い主についても詳細な回答を求めたことです。飼い主の運動習慣や食事への認識が犬に与える影響を明らかにするためです。このようにして、合計3,298人の回答が集計されました。
調査結果から明らかになった効果的な減量戦略
アンケートの集計分析結果には、はっきりとした傾向が表れていました。
まず「愛犬は理想的な体重ではない」と認識している人は次の項目に高い率で当てはまっていました。
- 獣医師または他の誰かから犬が太り過ぎだと言われたことがある
- 体重管理のための食事制限をしている
- 体重管理のための低カロリーフードを与えている
- 日常的に食事以外の食べ物を多く与えている
反対に「愛犬は理想的な体重だ」と認識している人は、飼い主自身が中程度以上の運動を長時間行っている傾向が強くなっていました。また飼い主が活動的な場合、犬の運動量も増加する傾向が見られました。
国別の傾向では、ドイツでは「愛犬は理想的な体重だ」と回答した人の数が最も多く、飼い主の運動の頻度や時間も最も長かったことがわかりました。
愛犬が太り過ぎの飼い主では、犬の運動習慣を変えようとしている人は少数で、ほとんどが食事療法やおやつを減らすことにのみ焦点を当てていました。
過去の研究では、獣医師による適正体重の指導も食事療法が中心で、運動習慣を指摘する場合が少ないことがわかっています。
これらのことから、犬の肥満対策および適正体重を保つためには食事と運動を総合して行うことが効果的であると結論づけられました。
獣医師が安全で効果的な運動療法を行うための指導を提供することが必要だとも述べられており、今後の課題のひとつとしています。
まとめ
5カ国3,000人以上の犬の飼い主へのアンケート調査の結果から、愛犬が太り過ぎと認識している人は対策として食事療法のみを行っている傾向が強いこと、愛犬が理想体重だと認識している人は飼い主自身も活発で運動量が多い傾向が強いという報告をご紹介しました。
愛犬が太っている飼い主の行動、愛犬が理想体重の飼い主の行動のひとつひとつを見ると「当たり前では?」と思われるかもしれませんが、全体の傾向を見ることで犬の肥満対策に欠けているもの、効果的なことが明らかになります。
太り過ぎの犬が急激に運動量を増やすと怪我や関節の障害につながりやすいので注意が必要ですが、この点は獣医師やトレーナーによる指導が重要であることにつながります。
自分自身の食事と運動、愛犬の食事と運動の両方を改めて見直してみたくなる結果だと言えそうです。
《参考URL》
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0272299