犬の老化研究プロジェクトからの新しい報告
アメリカのワシントン大学医学部と、テキサスA&M大学獣医学部および生物医学科学部が国立衛生研究所から資金提供を受けて立ち上げた、ドッグ・エイジング・プロジェクトという犬の老化に特化した研究プロジェクトがあります。
このプロジェクトは、一般の飼い主の参加を募って質問票への回答や血液サンプルなどへの協力を依頼しています。現在は家庭犬3万頭以上が登録して膨大なデータベースを構築しており、世界でも最大の犬の研究プロジェクトとなっています。
そのドッグ・エイジング・プロジェクトから、犬の認知機能低下いわゆる認知症についての新しい調査結果が発表されました。愛犬の老化が気になるという方も、今はまだ若いけれど将来のためにという方も、知っておきたい内容をご紹介します。
犬の年齢と認知機能低下の相関関係
犬の認知機能低下は人間のアルツハイマー病との共通点が多いため、今までにも数多くの研究が行われ発表されて来ています。
この研究ではドッグ・エイジング・プロジェクトに参加している15,019頭の犬について、飼い主に犬の健康状態および認知機能評価測定のための質問票に回答してもらい、認知機能低下とリスク要因が分析されました。
認知機能評価測定の質問票では犬の年齢、性別、犬種、健康状態、活動レベル、日常生活の中の行動についての回答をスコア化して、50点以上が認知機能低下症であるとされます。回答者のうち1.4%が認知機能低下症(認知症)と判定されました。
また様々な特性を調整して考慮した結果、犬の年齢と認知機能低下の間には年齢が上がるほど認知機能低下のリスクが上がるという正の相関があることが示されました。10歳までの認知機能低下の有病率はほぼゼロなのですが、10歳以降は認知機能低下のオッズは1年ごとに52%増加していました。
年齢以外の認知症のリスク要因
年齢以外にも認知機能の低下のリスク要因が明らかになりました。
年齢、健康状態、犬種、不妊化手術の状態が同じ条件の犬では、活動的でない犬が認知機能低下症である確率は活動的な犬の6.47倍にもなっていました。これは運動が認知機能の低下を予防する可能性があると同時に、認知症になった犬は活動量が低下している可能性も考慮する必要があります。
運動の他には、過去に神経疾患、眼疾患、耳疾患に罹ったことのある犬は認知症の発症確率が高く、テリアおよびトイグループの犬種も他の犬種よりも高いオッズを示しました。
この研究結果は世界の多くのメディアで取り上げられ、プロジェクトに携わっていない獣医療学者が数多くコメントしています。
それらを総合すると、この研究結果は犬のライフスタイルが認知機能の低下に影響を与えるという証拠をサポートするものであるとしています。それはつまり食事、身体的刺激、知的刺激、社交が脳の健康維持に重要であるという証明でもあります。
まとめ
犬の老化研究のドッグ・エイジング・プロジェクトが実施した犬の認知機能低下についての大規模調査の結果から、犬の年齢と認知症に正の相関があること。神経、目、耳の疾患の既往歴、運動量の低下も認知機能低下に関連しているという報告をご紹介しました。
この研究に使用したデータは全てが飼い主による回答に基づいていることは、研究結果を制限するものとして考慮する必要があると研究者は述べています。過去のことを思い出して記憶を頼りに回答したり、ついつい事実よりも望ましい回答を記入してしまうという誤差があるからです。
同プロジェクトでは今後もさらに犬の認知症の研究を継続していくということですので、ゆくゆくは効果的な治療方法などの開発につながると良いですね。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-022-15837-9