音響刺激は家庭犬の福祉にも役立つだろうか?
犬の福祉と何らかの音響刺激についてはたくさんの研究が行われています。「どんな音楽が好まれるのか?」「音楽よりもオーディオブックが良いらしい」「ストレス値はどのくらい変化するのか?」など、カバーしている範囲も様々です。
一般の飼い主さんにとって気になるのは、お留守番の時に何かの音を流しておいた方が良いのだろうか?ということではないでしょうか。外出時にはラジオやテレビをつけておくというお話もよく耳にします。
動物保護施設など慢性的なストレスを感じやすい環境では、クラシック音楽やオーディオブックを流すことで犬たちが明らかに落ち着いたという報告があります。では一般の家庭犬ではどうなのでしょうか?
この点についてイギリスのクイーンズ大学ベルファストの研究者が調査を行い、その結果を報告しています。
クラシック音楽とオーディオブックで実験
この実験で調査されたのは飼い主の不在というストレス下において、音響的な刺激が犬のストレス緩和に役立ったかどうかでした。実験は2種類行われました。
犬と飼い主はカメラがセットされた実験室に通されます。実験室には実験員がおり、飼い主は犬を残して別室で犬の行動評価の質問票に記入するよう案内されます。実験室には実験員と犬だけが残されますが、実験員は犬との接触は全く行いません。
飼い主を待つ間、実験室には次の3つのうちのどれかの音響刺激が部屋に置いたスピーカーから流されます。それぞれの状態の部屋に犬たちが均等に割り当てられ、60分間にわたって犬の様子が録画観察されました。
- クラシック音楽(モーツァルトK.448 軽快なピアノ曲)
- オーディオブック(ハリーポッターと賢者の石、音楽や効果音のない男声)
- 無音
実験2には22頭の犬が参加しました。実験1と同じように犬と飼い主が実験室に通され、犬だけを残して飼い主が退室します。実験2では3種の音響刺激のうちのどれかを30分間流した後10分の休憩をおいて残りの2種の音響も流し、それぞれの犬の反応や行動が記録観察されました。
3つの音響効果で犬を落ち着かせたものは?
録画された犬の行動から、犬が伏せの姿勢を取るまでの時間、伏せの姿勢で30秒以上静止して落ち着くまでの時間、スピーカーに視線を向けた合計時間が比較され、次のような結果が得られました。
実験1
- クラシック音楽を聴かせた犬はオーディオブックよりも有意に早く伏せの姿勢になった
- クラシック音楽は他の2つよりも早く犬を落ち着かせた(30秒以上静止)
- オーディオブックを聴かせた犬は他の2つよりも有意に長くスピーカーに視線を向けていた
- クラシック音楽を聴かせた犬は無音状態よりも長くスピーカーに視線を向けていた
実験2
- 3つの条件において違いが見られたのはスピーカーへの注視時間だけが有意に違っていた
- クラシック音楽、オーディオブック両方が無音よりもスピーカー注視時間が長かった
これらの結果から、家庭犬が飼い主から離れるというストレス下にある時にクラシック音楽は犬を落ち着かせる効果があるが、オーディオブックには福祉的な効果はないことが示されたと結論づけています。
この実験では犬の行動観察によってストレス緩和の度合いが判定され、心拍数やコルチゾール値の測定などは行われていません。研究者は今後さらに多様な状況での研究が必要だと述べています。
まとめ
クラシック音楽、オーディオブック、無音の3種の状態で飼い主と離れた犬の行動を観察したところ、クラシック音楽はオーディオブックや無音よりも犬を早く落ち着かせること、オーディオブックは犬の注意を引くけれど福祉的なメリットは見られなかったという調査結果をご紹介しました。
しかし、オーディオブックも犬の福祉に悪影響は見られなかったことはメリットのひとつとも言えます。注意を引くという点で退屈しのぎになる可能性もあります。過去の研究ではヘビーメタルやハードロックは犬へのネガティブな影響が報告されているので、オーディオブックは決して悪い選択ではないようです。
また過去の研究では、音響刺激が何もない方が犬の吠え行動が少ないという報告もあります。留守番中や車での移動中に犬に対して何らかの音響刺激を与える場合、人間用の音楽ではなく、犬の感覚器官に合わせてデザインされた音楽の方が犬の福祉に役立つとも言われています。
色々な説があり今後さらに研究が必要だということですが、犬の留守番中に音楽などを流すとすればラジオならFM局のクラシックチャンネル、またはダウンロードしたクラシック音楽や犬用音楽をリピート再生するのが良さそうですね。
《参考URL》
https://doi.org/10.1016/j.applanim.2022.105688