目は口ほどに物を言う
私達人間は、コミュニケーション手段として言葉を主たるツールに選びました。その結果、見知らぬ他者に対しても、とても細かいことまで正確に伝えることができます。しかし、「目は口ほどに物を言う」ということわざもあるくらい、目によるコミュニケーションにも高度な伝達能力があることが知られています。
この目によるコミュニケーションは、人間に特有のものだと考えられてきました。
ところが、2019年に英国ポーツマス大学の研究者が発表した『Evolution of facial muscle anatomy in dogs(イヌにおける顔面筋構造の進化)』という論文が話題になりました。これは、犬は人間と一緒に暮らしてきた長い歴史の過程で、目の周囲にある筋肉を発達させ、それを人間とのコミュニケーションツールとして役立てているといった内容の論文です。
そこで、今回は犬の目によるコミュニケーションについて整理してみたいと思います。特に、「目を細める」といった仕草に着目します。本来、「目を細める」といった行為は、眩しいなどの環境への対応や、目の病気やケガなどによる痛みへの対応としても出てくるものです。
しかし今回は、テーマを「コミュニケーション」についてに絞りますので、純粋に心理的な理由による「目を細める」行為についてのみをご紹介していきます。
犬が目を細くしている時の心理とは
1.心地良さにうっとりしている
とてもリラックスした状態で、目を細めて穏やかに落ち着いている場合、それは現状の心地良さにウットリとして酔いしれたような心理状態であると考えられます。それは、飼い主さんに優しく撫でられて気持ちが良い時や、飼い主さんの体に身を預けて日光浴をしている時などかもしれません。
私達人間が、温かいお湯に浸かって1日の疲れを癒やしている時や、ベテランのマッサージ師に身を委ねている時などと同じような心境だと考えれば分かりやすいと思います。
愛犬がこのような様子で目を細めている時には、幸福感を感じて満足しているのだろうと考えて良いでしょう。場合によっては、そのまま眠ってしまうこともあるでしょう。
2.愛情を伝えている
飼い主さんなどの心から信頼している相手に対して自分の抱いている愛情を伝えようとしている時にも、犬は目を細めるという行為を行います。
犬は、相手とのスキンシップに幸福感を覚えると、目を細めて口角を上げた、人の笑顔とよく似た表情をつくることがわかっています。これも、犬が長い歴史の中で得た、人とのコミュニケーション手段の1つなのだと考えられます。
愛情を伝える相手は、飼い主さんだけとは限りません。心から信頼している相手であれば、飼い主さんの友人であったり、または一緒に暮らしている他の犬や猫の場合もあるでしょう。
3.緊張感を抑えようとしている
先程犬は心地良さにウットリとしている時に目を細めるとご紹介しましたが、全く逆の状況で、強いストレスや不安を感じて緊張感が高まった状態の時にも目を細める場合があります。そしてこのときの行為には、自分の中で高まってきている緊張感や不安感を落ち着かせようとしている意味があると考えられています。
4.友好関係の構築を働きかけている
また、自分の緊張感を鎮めるためではなく、相手の緊張感を落ち着かせようとして目を細める場合もあるようです。
犬同士のコミュニケーションとして、相手のことをじっと見つめるという行為には「戦闘態勢に入っており、攻撃のチャンスを伺っている」という意味があります。しかし、基本的に犬は不要な争いを避けたいと考える傾向があるようです。
そこで、自分に対して敵意を示している相手に対して相手を直視しないことで、「自分は敵意を持っていない」ということを伝え、相手の戦意を落ち着かせようとして行っていると考えられています。
まとめ
犬は人とのコミュニケーションに「顔の表情」も上手に利用します。特に、目の周囲にある筋肉を発達させてきました。そのため、愛犬が「目を細めている」場合、その表情にも何か意味があるのです。
しかし、一言で「目を細めている」と言っても、愛犬が伝えたいことは1つだけではありません。今その場の状況に非常に満足していて幸せである、相手に対して自分の愛情を伝えたい、自分が感じているストレスなどの緊張感を抑えようとしている、自分に敵意を抱いている相手を落ちつかせたいなど、複数の理由があることが分かりました。
愛犬の表情と供に全身の状態やその場の状況をよく観察し、愛犬が伝えようとしていることをしっかりと受け止められる飼い主さんを目指したいものですね。