犬と人の聴力の違い
犬は、人よりも優れた聴力を持っているといわれています。人が聞こえないような高音が聞こえたり、人が聞こえないような小さな音まで聞こえるというのです。それを具体的な数値で表すと、下記のようになります。
聞こえる周波数の範囲:数値が高い方が高音
- 人:16〜20,000Hz
- 犬:65〜50,000Hz
人は20,000Hzの音まで聞くことができますが、音程を聞き分けられる範囲は20〜4,000Hzだといわれており、一般的なピアノ(88鍵)の周波数27.5〜4,186Hzもそれに由来しています。
なお、人の話し声の周波数は80〜8,000Hzなので、犬にも全て聞こえています。しかし、犬には人間には聞こえないかなりの高音も聞こえているのです。
聞こえる音圧:数値が低い方が小さい音
- 人:0db
- 犬:-5db
犬は人よりも小さい音が聞こえるため、飼い主さんには聞こえないエレベーターの音や壁の中・天井などに通っている排水管の中を流れる水の音、マンションの廊下の足音や話し声なども聞こえていると考えられます。
犬がよく反応する音とその特徴
1.獲物が発する音
元々狩猟により獲物を得ていた犬は、どんなに小さな音であっても、獲物が発する音にはよく反応します。
犬にとっての主たる獲物となる、小型げっ歯類が発する8,000Hz付近の周波数音が該当し、本能的に反応します。音源の位置を正確に特定するため、首を傾げたり耳を動かして、音に注意を向ける行動を見せます。
2.犬の遠吠えの声
犬は、犬の遠吠えの声にもよく反応します。
遠吠えは、犬が遠くにいる仲間へのコミュニケーション手段として用いる声で、道に迷った仲間に自分の居場所を知らせたり、狩りを開始する合図や群れの縄張りに侵入者が入り込むのを予防するために発すると考えられています。これも、本能的に反応する音の一つです。
よく救急車のサイレンに反応して遠吠えをする犬がいますが、これはサイレンの周波数770〜960Hzが犬の遠吠えによく似ている周波数だからだと考えられています。
3.高く張った声
飼い主さんが「よし!」「いい子!」などと愛犬を褒める時に使う声色は、高く張った声であることが多いです。これは、犬にとっては陽気で楽しい音として受け止められる声色です。そのため、よく反応するだけではなく、好意的に受け止める音でもあります。
地声が低い飼い主さんも、愛犬を褒めたり名前を呼んだりする時には、なるべく高く張った声を使うように心掛けるとより効果的です。
4.不意に発せられる大きな音
人も同じだと思いますが、犬は不意に発せられる大きな音によく反応します。特に空気を振動させるような低くて大きな音は、犬に強い恐怖を感じさせます。代表例が、雷、打ち上げ花火、工事の際に発せられる騒音などです。また、掃除機やドライヤーなどの家電品が発する音にも該当するものがあります。
もちろん低音だけではなく高音にも反応します。周波数約30,000Hzの人間には聞こえない高音を出す犬笛がその代表例で、犬に指示を与える場合などに利用されています。
5.過去に経験した思い出と強く関連付けられている音
上記の条件に当てはまっていなくても、過去に経験した思い出と強く関連付けられている音にも、犬はよく反応します。
掃除機やドライヤーの音、玄関チャイムの音などは、不意に発せられる大きな音でもあり、かつ過去の経験により嫌な思い出と強く関連付けられているケースも多い音の例です。
ドッグフードやおやつの入った袋を開けた時のガサガサという音などは、嬉しい思い出と強く関連付けられている音で、こういった音にもよく反応します。
犬にストレスを与えてしまう音
犬にとってストレスを与えてしまう音とは、恐怖、緊張、警戒といった負の感情や思い出を呼び覚ましたり想起させたりする音です。つまり、恐怖感を感じさせる「不意に発せられる大きな低い音」や「過去に経験した嫌な思い出と強く関連付けられている音」だといえるでしょう。
具体的には、雷、打ち上げ花火、工事の騒音、トラックやバスなどの大型自動車のエンジン音、掃除機やドライヤーなどの家電品の音、侵入者を連想させる玄関チャイムや家の外から聞こえてくる人や他の動物の声などです。また、テレビのドラマや映画から聞こえるこれらの音にストレスを感じている可能性もあるでしょう。
犬が音を聞いてストレスを受けている場合は、耳を伏せてしっぽを股に巻き込む、伏せる、瞳孔を開く、落ち着きをなくす、食欲がなくなる、吠え続けるといった行動が見られるので、愛犬の様子をよく観察して、愛意見が怖がる音を把握しておきましょう。
まとめ
犬の社会化期(生後3週齢〜12週齢頃)にできるだけいろいろな音を聞かせることで、身近な音に慣れさせることができます。
愛犬が怖がる音を把握できたら、聞こえないようにする、おもちゃなどで気を逸らすといった対策をとり、ストレスを緩和させてあげましょう。そして、なるべく間を空けずに何度も同じ状況をあえて経験させ、その際におやつや遊びなどを行うことで「嫌な感情」を「嬉しい感情」に上書きすることで、克服させることも出来ます。
また雷などの音に対して、飼い主さんも一緒に動揺してしまうと、愛犬はますます不安が募ります。飼い主さんは、いつでも落ち着いた態度で対応できるように心掛けましょう。
そして、愛犬の音に対する反応があまりにもひどい場合には、行動診療科認定獣医師やドッグトレーナーなどの専門家に相談することも検討しましょう。