犬とオオカミは行動観察で評判を作り上げるだろうか?
集団で生活をする動物にとって、仲間内での評判はその社会でスムーズに生きるために重要なものです。特にお互いに協力が必要な社会においては評判の良し悪しは大きなウェイトを占めると考えられます。
犬は何世代にもわたって人間と協力し合って狩猟や牧畜に携わってきた動物です。そのため犬は、ある人が他の人間や動物と関わり合う姿を観察することで、その人の評判を形成できるのではないかという研究が行われてきました。
複数の研究機関によるこれらの研究は、さまざまな要因から少しずつ違う結果を導き出しましたが、どうやら犬は人間の行動を観察して評価をくだしているようでした。
オーストリアのウィーン獣医科大学の動物行動学研究所の研究チームは、もし犬が本当にこのような能力を持っているとしたら、それは家畜化の過程で身につけたものなのか?それとも祖先であるオオカミにすでに備わっていた能力なのかを確認するための調査を行いました。
研究チームはオーストリアのウルフサイエンスセンターで飼育されているオオカミと犬を対象にして実験を行いました。
群れで飼育されている犬とオオカミを対象にして実験
実験に参加したのは9頭のオオカミと6頭の犬でした。オオカミはサイエンスセンターで生まれて飼育されている個体たちです。6頭の犬のうち2頭はハンガリーの動物保護施設から迎えられ、残り4頭はサイエンスセンターで生まれて飼育されています。
実験は、オオカミと犬たちに人間と他の犬との食べ物のやり取りを見せるというものでした。実験員は犬ともオオカミとも面識のない初めて会う人です。実験に参加した犬は研究員の家庭犬たち6頭で、それぞれのセッションで観察側のオオカミまたは犬と仲の良い犬が選ばれました。
実験員と家庭犬のやり取りは2種類行われました。家庭犬は囲いの中に入っており、実験員は親しげな声で「はいどうぞ」と言って囲いの中に肉を投げ入れます。囲いの中の犬は肉にありつきます。
もうひとつは別の実験員と同じ家庭犬で、実験員は肉を見せるだけで怖い声で「食べてはダメ」と言い、肉を持ったまま背中を向けて腕を組みます。囲いの中の犬は肉をもらえないまま他の研究員によって退出します。
このやり取りを日にちを置いて複数回繰り返し、対象のオオカミと犬たちに見せます。次に犬に肉を与えた実験員と与えなかった実験員が同時に対象の動物の前に現れた時に、どちらの人のそばに近寄るかが観察されました。
気前よく肉をくれる人、肉をくれない人、オオカミと犬の評価は?
2種類の行動を見せた実験員に対するオオカミと犬の反応は、近寄る回数においては有意な違いが確認されませんでした。残念ながらこの実験では、犬とオオカミが、ある人間に対する集団レベルでの評判の形成を行うという裏付けをとることはできませんでした。
しかし、オオカミは実験員と家庭犬のやり取りを観察する際に、気前よく肉を与える人間により注意を払っていたことがわかりました。また2頭のオオカミと3頭の犬は、実験員の観察と直接接触の両方を経験した後では、気前よく肉を与えていた人間を好むという結果も得られました。
研究者は実験のデザインを変えて今後も研究を続ける予定です。このような研究は犬の家畜化と進化についてより深く理解し新しい発見を得られる可能性があります。
まとめ
ある犬に対して気前よく振る舞う人間と、そうでない人間の行動を繰り返し見た犬とオオカミは、その人間に対する評判を形成するか?という実験では明確な証拠を得られなかったという結果をご紹介しました。
しかし少なくとも、気前の良い人間に対してはより注意を払っていたこと、直接接触を経験した後では気前の良い人を好む個体がいたことも分かりました。
過去の別の研究では、家庭犬は飼い主に対して意地悪な人間に近寄らないという結果もありますので、集団内での評判とは別に、人間の行動を観察して評価することは可能だと考えられます。
この研究施設の犬は普通の家庭犬と違って、犬同士の集団で生活しているため行動に少し違う面があるのかもしれません。犬が集団の中でどのように考え、情報を伝達して行動するのか、想像するとワクワクしますね。
《参考URL》
https://www.catholiccompany.com/magazine/st-roch-patron-of-dogs-6114#
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2015-06-12