ヒトと犬の糖尿病の共通項について調査
糖尿病という疾患の名前はよく知られていますが、1型と2型という2つの違うタイプの糖尿病はしばしば誤って混同されています。
1型糖尿病は、膵臓のインスリンを出すベータ細胞が破壊されてしまう病気です。なぜベータ細胞が破壊されてしまうのかという原因は解明されてませんが、自己免疫が関わっていると考えられています。
この1型糖尿病は子供を含めた若年齢での診断が多く、ヒトの糖尿病研究では高地、日照時間の短さ、寒冷地などの気候条件が関連していることがわかっています。
犬の糖尿病にも1型と2型があり、人間とは反対に1型の方が圧倒的に多く見られます。このたびアメリカのペンシルバニア大学獣医学部の研究チームが、上記のようなヒトの1型糖尿病と気候の関連が犬にも当てはまるのかという調査を行い、その結果を発表しました。
1型糖尿病の犬の飼い主へのアンケートでデータ収集
調査のためのデータはオンラインアンケートを使って集められました。調査対象者は米国ケネルクラブ、各種の犬種クラブ、獣医学研究機関、獣医療機関、ソーシャルメディアを通じてアンケートへの回答を依頼された、1型糖尿病を患っている犬の飼い主です。
最終的にアメリカ在住の960頭の犬について、犬種、性別、不妊化の状況、犬の生年月日、犬の居住州、1型糖尿病と診断された日付、治療のためのインスリン投与量などについてデータが収集されました。
犬の居住州は、西部(北西部と西部)、北部(ロッキー山脈北部、平原地帯、中西部、北東部)、南部(南西部、南部、南東部)、中部に分類して分析されました。
1型糖尿病と北部/冬季に明確な関連
アンケートの回答で1型糖尿病と診断された日付がわかったのは669頭でした。そのうち33%が冬に診断されていたのに対して、春24%、夏24%、秋19%でした。
また地域別では、北部に居住している犬の数が全体の46%と突出していて、他の地域では南部27%、中部15%、西部12%でした。それぞれの地域の犬の登録数は南部では3,100万頭、北部では2,400万頭と南部の方が犬の数が多いにも関わらずの結果でした。
このようにヒトの1型糖尿病と同じように、犬の場合にも地域の緯度や気候、季節が大きく関連していることが明らかになりました。
また、研究対象の犬のうち2.8%が1歳未満で1型糖尿病を発症していました。この若年の発症例も寒い地域や寒い時期に多く見られました。特定の犬種との関連は見られなかったため、遺伝以外の要因が若年性の1型糖尿病に影響している可能性が示されました。
人間の場合、寒冷地と寒い季節に診断が多いことについて、日照不足によるビタミンD欠乏、食事、ウイルス感染などの関連が考えられています。
しかし犬の場合、どの地域でもほとんどの犬が市販のドッグフードを食べているため、食事との関連は考えにくいとされています。また肥満も1型糖尿病のリスクに関連していないので、運動との関連も考えにくいということです。
研究者は、体内でのビタミンDおよびインスリンの処理方法が1型糖尿病発症に関連している可能性が高いと考えているそうです。今後さらにビタミンDと糖尿病リスクの関連について掘り下げることと、ウイルス感染の既往歴との関連の調査を行うとのことです。
まとめ
犬の1型糖尿病のリスクは、人間の同じ病気と同様に寒冷地、冬季、日照時間の短さと関連して高くなっているという調査結果をご紹介しました。
1型糖尿病はその原因が未だ解明されていません。研究でリスク要因や原因が明らかになれば犬はもちろんのこと、人間の治療にも応用して役立つ可能性があります。今後の研究結果の報告に期待したいと思います。
《参考URL》
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0272297
https://www.nature.com/articles/s41598-017-12954-8