カナダのケベック州がようやく着手した動物福祉安全法
カナダでは、影響力のある動物保護団体が動物福祉の向上や虐待的な扱いを禁止するための法律の制定を自治体や世論に向けて訴え続けています。
ケベック州にあるモントリオール動物虐待防止協会も、何年も前から州政府に対して犬や猫への非人道的な処置を禁止するよう法改正を要求して来ました。
2022年5月にケベック州政府はようやく新しい動物福祉安全法の規制案を発表し、8月にはこの新しい法律の施行が決定されました。新しい法律の内容はどのようなものなのでしょうか。
人間の都合だけで行われる手術を禁止
新しい動物福祉安全法で最も注目を集めているのは、犬や猫に対する治療目的以外の手術を禁止するという項目です。治療目的以外の手術とは次のようなものです。
- 猫の抜爪手術
- 犬の声帯除去手術
- 見た目を整えるための断尾、断耳
猫の抜爪手術とは、家具や人を引っ掻いて傷つけないように猫の前足指の第一関節から先を切除する手術です。爪だけを取り除くのではありません。犬の声帯除去手術は大きな声で吠えることができないように声帯を切除するものです。
どちらも犬や猫にとって必要な器官を取り除いてしまうことで、身体的にも精神的にも悪い影響を及ぼします。
断尾や断耳は、元来は牧畜や狩猟の際に踏まれたり引っ掛けたりして怪我をするのを防ぐためでしたが、現代の家庭犬の大多数には必要のないものです。
ケベック州の獣医師会では2017年に会員の獣医師に対して、治療目的以外の断尾や断耳の処置をすることを禁じています。抜爪手術や声帯除去手術についても行う獣医師はほとんどいない状態です。獣医師会もまた州政府に対して法による規制を求め続けていました。
動物保護団体や獣医師会などの請願がようやく叶ったと言えます。
手術以外の重要な規制
新しい法律では、上記の手術以外にも次のようないくつかの大きな変革がありました。
- 犬や猫の殺処分のためのガス室の使用を禁止
- 犬にプロングカラーを使用することを禁止
- 新しくライセンスを取得したブリーダーが所有できる動物は50匹までとする
2022年8月に発表されたのは、新しい動物福祉安全法による規制を施行することが正式に決定したということで、実際に規制が施行されるのは18ヶ月後になります。
施行までにまだ1年半もの期間があることについて州政府は「人々や企業が新しい規則を遵守する時間を確保するため」と説明しています。新法ではペットだけでなく家畜動物の飼育や繁殖についても定めているためと思われます。
実際の施行までの期間も含めて、モントリオール動物虐待防止協会や国際動物愛護協会カナダ局は「変化は歓迎すべき良い動きだが十分とは言えない」としています。
新しくライセンス取得するブリーダーへの50匹規制は全てのブリーダーを対象にするべきであること、動物の数だけでなく世話をする人間も最低限必要な人数を定めるべきといったことが挙げられています。
規制があっても取り締まる調査官や機関がないと意味がないため、この点についても引き続き要求を出していくとのことです。
また研究実験に使われる動物の保護(人道的な扱い、研究終了後の譲渡の許可など)が新しい法律で触れられていないことも改善が必要な点とされています。
まとめ
カナダのケベック州で犬や猫の治療目的以外の手術禁止を含む新しい動物福祉安全法の施行が決定したという話題をご紹介しました。
完全とは言えませんが、動物に対する人道的な扱いが法によって定められたのは良い動きです。日本でも動物愛護法の見直しは定期的に行われていますが「法律で規制しても、検査したり取り締まる機関がないと意味がない」という点は、一般の国民も心に留めておきたい点です。
日本には欧米諸国にあるような大規模で影響力のある動物保護団体がないので、一般の飼い主も含めて動物に携わる人々が知識を持っておくことがより大切です。外国の例を知ることも知識の一端になります。
《参考URL》
https://www.legisquebec.gouv.qc.ca/en/pdf/cs/B-3.1.pdf
https://www.cbc.ca/news/canada/montreal/quebec-pets-surgery-ban-1.6548524?__vfz=medium%3Dsharebar