注目される犬のウェルビーイング
近年では、コンパニオンアニマルを単なるペットではなく家族の一員と考える人が増えています。犬の毎日の生活についても、食事と散歩だけでなく退屈せず快適に過ごしているか、体の具合の悪いところはないかと気を配ることが普通になりつつあります。
このように犬が毎日を楽しく健康で幸せに過ごすことをウェルビーイングと言います。犬のウェルビーイングが保たれているか、犬のウェルビーイングを向上させるためにはどうすれば良いのかといった課題は犬に携わる人々の注目を集め続けています。
医療や福祉のための調査では飼い主や世話をしている人が複雑で長い質問票に回答して、犬の総合的なウェルビーイングを測定します。しかしもう少し手軽で、なおかつ信頼性の高いウェルビーイングの測定ツールというものは今までありませんでした。
この度、アメリカの大手ペットフードメーカーのマース・ペットケア社とウォルサムペットケア科学研究所、同社傘下のバンフィールドペットホスピタルの研究者が、犬の健康と幸福度を測定するツールを開発したと発表しました。
評価ツール試作のためのアンケート
犬のウェルビーイングの測定ツールとは犬の世話をしている人が回答する質問票なのですが、正確な判定を出すための項目を選ぶため、獣医師、獣医学栄養士、獣医行動学者、犬の飼い主が参加したチームが作られました。
開発チームは、エネルギーレベル、機敏性、痛み、食欲、水分補給、衛生などの身体的な要素と、幸福と不安の感情的要素、社会的な交流などの社会的要素の9つの分野をカバーするアンケートを試作しました。
試作アンケートは全部で94項目あり、イギリスとアメリカの全拠点のマース・ペットケア社の従業員が試験的に回答し、改良が加えられました。36項目に絞り込まれた犬のウェルビーイングについてのアンケートが作成され、バンフィールドペットホスピタルの顧客のうち無作為に選ばれた犬の飼い主に回答を依頼しました。
寄せられた回答はそれぞれの犬のペットホスピタルでの医療記録と照合され、飼い主による評価が妥当であるかどうかが検証されました。アンケートの回答は犬の医療記録と整合性があり、通常の診察では見落とされがちな全身倦怠感まで特定できることが示されました。
完成したQoL質問票で犬の幸福と健康を測定
このようにして作成された犬のウェルビーイングの測定ツールはQoL質問票と名付けられました。QoLとはQuality of Lifeの頭文字で日本でもクオリティオブライフとも言われますが、生活の質を意味します。
このQoL質問票は最終的に32項目の質問で構成されることになりました。32の項目は日中の活動についての5つの領域と、食事に関する3つの領域があり、それぞれの回答から犬の健康と幸福度を数値化します。
日中の活動についての5領域とは、犬のエネルギーレベル、機敏性、リラックス度(恐怖や不安がないか)、幸福感(落ち込んでいるような様子がないか)、社交性(飼い主や他の動物に対して愛情を持って接しているか)に分類されます。
食事の領域とはリラックス度(ストレスを感じないで落ち着いて食べているか)、興味(食べ物に対して興味や興奮を示しているか)、満足(食事のあと満足した様子かどうか)に分類されます。
開発にあたった研究者は、この質問票が犬の生活の質を評価し幸福度と健康度を有効に測定するとNature誌に発表した論文の中で述べています。
まとめ
大手ペットフードメーカーのマース・ペットケア社と同社の研究所と動物病院が開発した、犬の健康と幸せを測定するツールとしての質問票をご紹介しました。
この質問票を使うことで、犬の飼い主や獣医師が犬の健康状態をより良く把握できることが期待されます。質問に答えていくことで飼い主自身も新しいことに気付いたり手がかりがつながったりして、獣医師への報告が詳しく正確になるかもしれないですね。質問票が一般的に使えるように普及するのが楽しみです。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-022-16315-y