保護犬猫の不妊化手術の目印は認知されているか?
保護犬や保護猫は譲渡の前に不妊化手術を済ませていることは、行き場のない動物を増やさないためにも重要です。アメリカでは条例や州法によって、譲渡前の不妊化手術が義務付けられている地域も少なくありません。
動物が不妊化手術を受けたかどうかを識別するために、耳の一部をカットしたり耳またはお腹にタトゥーをいれるなど、目印を入れることは獣医療標準ガイドラインで推奨されています。
これは保護動物に限らず全ての動物に対して推奨されているのですが、保護動物の場合は世話をする人が複数になるため、誤認によって不要な麻酔や開腹を避けるためにも手術済みの目印は重要な意味を持ちます。
アメリカで最大の動物保護基金であるマディー基金とフロリダ大学獣医学部の研究チームが、保護犬猫の不妊化手術の目印が獣医療関係者にどのくらい浸透しているのかを調査し、その結果が発表されました。
アメリカとカナダの獣医学部と動物病院を対象に調査
調査の対象となったのは、大学の獣医学部ではアメリカから29件、カナダから5件でした。動物病院では、不妊化手術を実施している425の施設で、内訳は個人開業クリニック135件(32%)、動物保護施設119件(28%)不妊化専門クリニック130件(31%)その他41件(10%)でした。
獣医学部への調査では、不妊化手術済みの識別子(目印)について、講義、外科実習、臨床実習のそれぞれの場において教えているかどうかの質問が含まれていました。また、保護動物への不妊化手術のガイドラインや実践を説明した教育ツールを無料で利用したいかどうかも質問されました。
動物病院への調査では、診療形態や客層、不妊化手術などについての質問の他にアメリカ動物虐待防止協会が提供している保護動物のための不妊化手術トレーニングを受けたことがあるかどうかが質問されました。
虐待防止協会の提供するトレーニングではタトゥーと耳カットの両方のトレーニングが含まれています。また顧客から不妊化手術を依頼された際に、タトゥーなどの目印を実施しているかどうかも質問されました。
浸透していない不妊化手術済み目印
アメリカとカナダの34の獣医学部のうち、講義ベースのトレーニングに不妊化手術識別子の使用が含まれていたのは31%でした。この31%の大学の全てがタトゥーについて講義をしていましたが、耳カットについて講義があったのは4校のみでした。
実験室での不妊化手術トレーニングの場では75%が、臨床実習の場では38%が手術時のタトゥーをトレーニングに含めていました。しかしこれらの獣医学部が所属する大学病院で顧客の犬や猫の不妊化手術の際にタトゥーを実施していたのは32%にあたる11件のみでした。
動物病院施設からの回答では425件中204の施設で、動物虐待防止協会による保護動物のためのトレーニングを受けた獣医師またはスタッフを有していました。しかし個人開業クリニックではこのトレーニングを受けたスタッフがいる率が最も低く、135件中18施設のみにとどまりました。
獣医療標準ガイドラインで推奨されている通りに全ての動物に不妊化手術済みの目印をつけているのは、飼い主のいない動物を受け入れている施設、手術件数が多い施設、保護動物のためのトレーニングを受けたスタッフのいる施設に多く見られました。
動物保護施設の80%、不妊化手術専門クリニックの72%が全ての動物に手術済みのタトゥーを使用していました。
飼い主のいない動物の手術を請けていない施設では全ての動物に手術済みタトゥーを使用しているのは44%で、個人開業クリニックではわずか5%でした。個人開業クリニックのうち、飼い主のいない動物については手術済みのタトゥーを使用すると回答したのは21%でした。
まとめ
アメリカとカナダの大学獣医学部、動物医療施設を対象にして犬猫の不妊化手術が済んだかどうかの目印としてのタトゥーや耳カットについて調査した結果をご紹介しました。
不妊化手術をした際に小さな目印をつけることは、飼い主が変わった際や飼育背景が不明な動物を迎えた際の不妊化状況を明確にし、不要な麻酔や手術を避けるためのシンプルで効率の良い方法です。
しかし今回の調査結果は、不妊化手術済みの目印について獣医学部での一貫した教育が行われていないこと、手術済み目印を採用していない動物病院が多いことを示していました。
犬や猫に不必要な処置をすることを防ぎ、手術が必要な動物を識別するためにも標準ガイドラインの遵守と教育トレーニングの強化が必要であると研究者は述べています。
《参考URL》
https://doi.org/10.1016/j.tvjl.2022.105856