犬を飼うこととメンタルヘルスの関連を調査
「犬を飼うことは精神衛生上良い効果をもたらす」「犬との暮らしは心の健康に良い影響がある」など、犬を飼うことと心の健康のポジティブな関連は多くの人に信じられています。しかし実際には犬を飼うことがメンタルヘルスを改善するという証拠は非常に限られたものです。
イギリスのリバプール大学とアメリカのパーデュー大学の研究チームがこの点を掘り下げるために大規模なオンライン調査を行い、この度その結果が発表されました。
犬を飼うことが心の健康に良いのかどうか?というだけでなく、犬との感情的なつながりが強い人は心の健康状態もより良いのだろうか?という点も検証されました。
飼い主の心の健康と、犬との関係性をスコア化して分析
調査への参加者はSNSを通じて募集されました。オンラインでのアンケート調査にイギリス在住18歳以上で犬を飼っている1,693名の回答が寄せられました。
飼い主のメンタルヘルスの状態については、うつ状態、不安、感情的サポート、家族や友人との関係などについて医療的に標準化された質問によって測定、スコア化されました。
犬との関係性は犬と人相互の愛着、親密度、自覚している負担の度合いなどが心理学的に標準化された質問によって測定、スコア化されました。複数の犬を飼っている場合、自分にとって一番心理的に近いと感じている犬を対象にして考えるよう指示が与えられました。
5段階のスコアで回答する項目の他に、犬との関係性や犬の存在が及ぼす影響について自分の言葉で描写することも求められました。
犬の存在は飼い主の心にプラスにもマイナスにも働く
犬との関係性が深く強い人は、精神的にサポートされているという感覚やコンパニオンシップの感覚がより強いこともわかりました。これは簡単に予想がつくことですね。しかし飼い主のメンタルヘルスの状態と、犬との関係性の関連では一般に考えられているのとは少し違う結果が見られました。
それは犬との感情的なつながりが強く関係性のスコアの高い人は、不安やうつ状態のスコアも高いという傾向があったことです。これは犬を飼うことが不安やうつ状態につながっているという一面もありますが、元々不安やうつ状態の強い人が犬を飼うと感情的に強く結びつく傾向があるとも考えられます。
他の面では、犬を飼うことについて飼い主が自覚している負担(持病がある犬、経済的な負担、行動上の問題など)が低いほど、不安やうつ状態のスコアも低くなっていました。逆に言えば負担を感じている場合はフラストレーションや疲労感、罪悪感といったネガティブな感情が強くなり、不安やうつ状態のスコアの高さにつながりました。
しかし犬の存在が自殺願望や自傷行為などを解決するきっかけになったという回答も複数あり、犬がメンタルヘルスの改善の役割を果たしていることも確認されました。
回答者が自分の言葉で描写した犬との生活から得られる幸せについては多くの人にとってお馴染みのものが見られました。犬とのアクティビティ(散歩やスポーツなど)はより良い対人関係を作るきっかけになり、目的や成長を与えてくれるという回答が目立ちました。
犬の世話をすることで犬がサポートや愛情を示してくれると、自分には価値があるという自己肯定感につながるという回答も数多くありました。また、犬との関係性が強い人ほど、将来の犬との別れを思って不安になるという例、犬のニーズを満たせていないのではないかと不安を感じるという例も多く見られました。
まとめ
犬は飼い主の心に良い影響をもたらすと考えられており、犬との関係が深く強いほどその影響が大きいと認識されることが多いのですが、イギリスでの調査結果は確かにそのような一面もあるが、反対に犬の存在が負担や不安をもたらし心の健康や幸福感を低下させることもあるという報告をご紹介しました。
犬は喜びや楽しみを与えてくれ、痛みや苦しみを軽減してくれるというのは確かです。さらに自己肯定感や達成感といった単なる楽しみよりも一歩踏み込んだ幸福感をくれることも少なくありません。
しかし犬の行動や健康上の問題、飼い主の身体的および精神的な問題によって犬の世話が負担となり自分が理想とする世話ができない時は、社会的な行動に支障が出たりメンタルヘルスに悪影響になることもあります。
今回の調査では「自覚している負担」が飼い主の幸福感に大きく影響していることが明らかになりました。負担の軽減は飼い主のメンタルヘルスに重要であり、犬の福祉にも大きく影響します。今後の研究において犬を飼うことで生じる負担につながる問題に取り組むことが重要であると締めくくられています。
《参考URL》
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyg.2022.903647/full#SM1