ロボットの犬や猫でのセラピー導入
近年私たちの日常生活の中でロボットを目にする機会が増えています。掃除機などの日常的なものだけでなく、盲導犬ロボットや警備ロボットなどの高機能ロボットの研究開発や実用化も進んでいます。
高齢者の方々の施設でアニマルセラピーの代替としてのロボットセラピー、認知症の方への治療の一環としてのロボットペットの利用にも関心が高まっています。
しかしロボットペットの導入について有効な手順が決まっていないこと、ロボットペットの価格の高さが壁になっている例が少なくありません。高齢者施設での治療方法導入にはエビデンスに基づく実践も重視されます。
このような点を踏まえて、アメリカのユタ大学のレクリエーションセラピーの研究者が、高齢者施設でのロボットペットの犬や猫を使ったセラピーの導入手順の開発に着手したことを報告しました。
セラピーの導入手順を開発するための研究
研究者は過去10年間にわたって介護施設へのロボットペットの導入の可能性を考えていました。しかしロボットペットの多くは数千ドル、高価なものでは数万ドルの価格がついており、介護施設の居住者に必要なだけの数を購入するのは不可能でした。(日本円にすると数十万円〜数百万円)
しかし、2015年に発売された全年齢向けロボットペットの犬と猫の価格は150ドルを切り、導入手順開発の研究のために大量購入することも可能になりました。
このロボットペットはJoy for All社のコンパニオンドッグまたはコンパニオンキャットで、見た目はリアルなぬいぐるみです。犬はゴールデンレトリーバーの子犬、猫は長毛種でほぼ実物大です。
犬は時々「キャンッ」と吠える、尻尾を振る、首をかしげたり見上げたりするという仕草をします。猫は抱き上げると「ミャア」と鳴き、膝に乗せて撫でると喉をゴロゴロ鳴らします。またどちらも心臓の音がするよう設計されています。
こちらは同社のロボットペットがニュースで紹介された際の映像です。
https://youtu.be/05NwXiPwDu4
ロボットペットを通じて「ケアを与える側」になること
研究チームは長期介護施設で生活している82歳から87歳の重度の認知症の患者5名を、キャリーケースにいれたロボットペットと共に訪問し各30分のセッションを2日から10日の間を置いて2回行い、反応や感想を記録しました。参加者は犬か猫、好きな方を選ぶことができました。
参加者のほとんどは研究者がキャリーからロボット犬や猫を出すと、ごく自然に手を伸ばし、撫でたり軽く頭を掻いたりしました。
研究者は参加者に犬や猫についての質問を投げかけました、「以前に犬(または猫)を飼っていたのですか?」「犬の名前は何でしたか?」「どんな食べ物が好きだったのですか?」過去のペットに関する質問は参加者のポジティブな反応を引き出しました。
ロボット犬が吠えたり、ロボット猫がゴロゴロ言うことに対して参加者は好意的な反応を示しました。参加者によっては、研究者からの質問にうまく答えられない場合もありましたが、その間もロボット犬に意識を集中させていました。
参加者の反応が最もよかったのはロボットにブラッシングをすることでした。人間は誰かにケアを提供する役割を持つ時に心理的に快適になることがわかっており、参加者の反応はそれを表していました。
参加者たちはロボット犬やロボット猫に話しかけたり、目線を合わせたりして、「かわいい」「好き」といった気持ちを言葉で表現しました。
最適なセッションの長さなどを決定したり、グループセッションの可能性を探るためにはさらに研究が必要だということですが、低価格のロボットペットによるセッションは認知症の患者のセラピーに有効であることは、参加者のポジティブな反応からわかりました。
高齢者の介護施設でのアニマルセラピーはポジティブな効果がある半面、アレルギーや人と動物双方の怪我のリスクなどの問題もあります。ロボットペットによるセラピーはこれらの問題を解決すると考えられます。
研究者は患者に対してロボットペットを生きている犬や猫として紹介することはしないと述べています。相手が理解するかどうかは別として嘘をつくことは患者への尊重を欠くことになるからということです。
まとめ
高齢者の長期介護施設で認知症の患者に対してロボットペットを使ったセッションを行なったところ、参加者の反応は良好で新しいレクリエーション療法として有望であるという報告をご紹介しました。
犬や猫の負担、参加者のアレルギーや怪我などの心配をせずにアニマルセラピーの良いところが取り入れられるロボットペットは、セラピーの新しい形として希望が持てそうです。
患者の認知機能の状態や、個人個人の好みによって向き不向きはあると思われますが、高齢の方々の尊厳を保つ形でのセラピーのバリエーションが増えるのは素晴らしいことですね。
《参考URL》
https://js.sagamorepub.com/cjrt/article/view/11452/8352