犬の嗅覚と他の感覚がつながっている?
犬の嗅覚が並はずれて優れていることは今さら言うまでもありません。目が見えない犬がおもちゃやボールで上手に遊んだりすることも、その優れた嗅覚のおかげだと考えられていました。
しかし犬の嗅覚は独立した高い機能を持っているだけではなく、他の身体機能に関連する領域と接続していることがわかりました。
このたびアメリカのコーネル大学獣医学部の研究チームが、犬の脳内では嗅覚に関連する部分と視覚に関連する部分が接続されていることを発見したという発表を行いました。犬が自分の周りの世界をどのように認識しているのかが、またひとつ明らかになったようです。
犬の鼻からつながる脳へのマップ
犬が何かの匂いを嗅いだ時、鼻の孔から入った匂い物質は鼻腔内の嗅細胞(匂いを感知するセンサー)があり、ここで匂いの情報が処理されて電気信号に変換されます。この電気信号が嗅球(きゅうきゅう)という脳の領域に届き、そこから大脳皮質の嗅覚野へと送られて「匂い」として認識されます。
この研究ではマズルの長さが一般的な中頭種の犬たち(オス、メス混合)を調査対象とし、拡散MRIという高信号で撮像する方法で、嗅球から脳の他の皮質領域への接続をマップ化しました。
その結果、嗅球から後頭葉に直接つながっている接続が発見されました。後頭葉には一次視覚野があり視覚認知の中枢を担っています。研究者は犬以外の他の種ではこのような接続は見たことがないと述べています。
視力を失った犬が見えているかのように行動できる理由
嗅球と後頭葉が直接つながっているとどのようなことが起こるのでしょうか?
通常、目で見て視覚から入った情報は網膜や視神経を通して後頭葉の一次視覚野に送られます。一次視覚野に入った情報によって過去の記憶と照らし合わせ、目に見えた物体が何であるのかが認知されます。
今回発見されたように嗅球から匂いの情報が一次視覚野に直接届くことで、犬は嗅覚刺激を視覚の認知に統合していると考えられます。つまり犬は環境について学んだりその環境の中での自分の立ち位置を決める時に、嗅覚と視覚を統合して利用しているということです。
これは老化や障害によって視覚を失った犬が嗅覚を視覚の代わりに利用できることも示しています。目が見えない犬がボールで持ってこい遊びをすることができたり、他の犬と変わらぬスピードで歩いたりできるのは、この嗅覚と視覚の接続のおかげと言えます。
まとめ
拡散MRIという高度な撮像方法で犬の脳を調査したところ、匂いの信号が最初に届く脳領域である嗅球と一次視覚野のある後頭葉に直接つながっている接続が初めて発見されたという研究結果をご紹介しました。
かなりザックリした表現になりますが「犬は匂いでものを見ることができる」とも言えます。犬が世界をどのように感じて認識しているのかが、このように明らかになっていくのは一般の飼い主にとっても嬉しいことですね。
《参考URL》
https://news.cornell.edu/stories/2022/07/study-finds-new-links-between-dogs-smell-and-vision
https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.2355-21.2022