犬と防犯の従来とは違う側面を考える
「番犬」という言葉があったり、警備の任務に就く犬がいたりすることに代表されるように、犬が防犯の目的で飼育されることには長い歴史があります。しかしそのような訓練を受けたわけではない普通の家庭犬を飼うことと、犯罪発生の抑止に関連はあるのでしょうか?
このような疑問についてアメリカのオハイオ州立大学の社会学者の研究チームが調査を実施し、その結果が発表されました。この調査では個々の家庭ではなく、地域ごとの犬を飼っている世帯の割合と、その地域の犯罪の発生についての関連に焦点が当てられました。
犯罪率、犬の飼育率、住民同士の信頼度を調査
過去の社会学の研究では犯罪抑止に重要なのは「街頭での監視(普段と違う事柄、行動が怪しい人に注意を払うこと)」と「住民同士の信頼」であると報告されています。
この度の調査の研究者は、この「街頭での監視」というプロセスに近隣の家庭の犬飼育率が含まれるのではないか?と考えました。犬を散歩させる人は同じ時間帯に同じエリアを歩くことが多いため、たとえ意識していなくても犬の散歩が近所のパトロールになり得るという推測です。
研究者チームはオハイオ州コロンバス市の595の地域について、2014年から2016年の犯罪統計を調べました。次にコロンバスの住民を対象とした2013年の犬の飼育についての調査データを入手し、前述の595の地域の犬の飼育率をそれぞれ算出しました。
また、別の研究でデータ収集のために実施された各地域住民へのアンケート調査の結果もこの調査に加えられました。それは住民に対して「自分の住んでいる地域において道行く人は信頼できる」という問いに対して、「強く同意する」から「全く同意しない」の5段階で回答を求めたものでした。これは各地域ごとの住民同士の信頼度を示します。
このようにして、地域の犯罪率、犬の飼育率、住民同士の信頼度のデータを重ね合わせた結果が分析されました。
地域に「犬がいる」ということの犯罪抑止効果
データを集計分析した結果から以下のことが明らかになりました。
- 住民同士の信頼度が高い地域は、低い地域に比べて殺人、強盗、暴行の件数が少ない
- 信頼度の高い地域の中でも、犬の飼育率が高い地域はさらに上記犯罪の件数が少ない
- 犬の飼育と住民同士の信頼度の犯罪抑止効果は街頭での犯罪において特に大きい
- 住民同士の信頼度が低い地域でも、犬の多い地域は窃盗など建物内の犯罪件数が少ない
犬の飼育率が高い地域で犯罪が少ないことについて、先に述べたような「犬の散歩をする人が監視の役割を果たしている」という理由が挙げられています。さらに、犬の散歩中に近隣住民と会話し交流することで行われる情報の交換、住民同士の信頼の構築が犯罪の抑止効果につながっていると考えられます。
住民同士の信頼度が低い地域においても犬の効果が見られることについては、吠える犬が建物から犯罪者を遠ざけるという明快な理由が挙げられています。(建物の中で犬が吠えるという意味で、決して犬を外につなぎ飼いにするという意味ではありません。)
まとめ
犬の飼育率が高い地域では犯罪の件数が少ないというアメリカでの調査結果をご紹介しました。
従来から研究課題としてよく取り上げられている犬を飼うことのポジティブな効果は、そのほとんどが飼い主の心身の健康にまつわるものでした。この研究では毎日散歩に出て地域の人と交流するという健康面でのメリットと同じ行動が、犯罪の防止にも役立っていることが明らかにされました。
このような効果は国が違っても共通すると考えられます。犬を通じて人々が地域と関わることがポイントですので、犯罪抑止効果には犬のサイズも犬種も関係ないというのも大切な点です。
《参考URL》
https://doi.org/10.1093/sf/soac059
https://news.osu.edu/more-dogs-in-the-neighborhood-often-means-less-crime/