犬は叱られていることを理解できるのか
犬の知能は人間の2〜3歳児レベルで、30〜100個程度の単語は記憶できるといわれています。また、犬の脳と人間の脳の構造はよく似ていて、左脳で言葉の意味を、右脳で言葉のイントネーションから話者の感情を理解できるということも分かっています。
しかし犬は、単語の意味は理解しても文章を理解することはできません。言葉で考えたり記憶したりするということもありません。人間と犬とでは、脳の構造は似ていても、思考の方法が違うのです。その一環として、犬は過去の行動を振り返るとか、自分の行動が間違っているかなどという考え方はしないといわれています。
このことから、犬は叱られている時に、飼い主さんの口調や態度から叱られているということは理解できますが、なぜ叱られているのかを理解するのは難しいということが分かります。
しかし、叱られている時の犬の様子を見ていると、深く反省しているとか罪悪感を覚えているように見えます。この様子を見た飼い主さんは、愛犬には悪いことをしたという自覚があり、反省していると思うかもしれません。
一方、2009年に認知科学者のアレクサンドラ・ホロウィッツ教授が行った研究では、『叱られているときに見せる犬の反省したような仕草や態度は反省や罪悪感ではなく、「恐怖」から来ているのだ』という結論を出しました。
ではここからはもう少し具体的に、叱られた時に見せる犬のしぐさや態度について見ていきましょう。
叱られた時に見せる仕草や態度
1.罪悪感や反省しているような表情
耳を後ろに倒し、少しうつむき加減に小さく縮こまった感じで上目遣いに叱っている飼い主さんの顔を伺います。
叱られている犬が反省していると思える代表的な仕草ですが、これらは全て犬が恐怖を感じている時のサインです。
2.あくび
前述の表情とともに、あくびをすることもよくあります。叱られている時にあくびなんてと思われる飼い主さんもいるでしょう。
犬は、あくびをすることで相手の緊張をほぐし、自分の気持ちも落ち着かせようとしているのです。つまり、あくびは飼い主さんへの「もう怒らないでください」という懇願なのです。
3.目を逸らす
犬は、目をじっと見つめられるのが苦手です。それは本能的なもので、威圧感を受けてしまうのです。そのため、「そっとしておいてください」「あまり関わりたくないです」という気持ちの時に目を逸らすと考えられています。
叱られている時に目を逸らすのは、やはり「もう怒らないでください」という懇願だと考えられます。
4.飼い主の手を舐める
叱られている犬は、恐怖やストレスを感じています。そのため、飼い主さんの緊張(怒り)を和らげようとして行う行動の1つが、「手を舐める」です。
犬自身は飼い主さんに対して敵意を持っていないことを表し、「だからもう怒らないで」とお願いしているというわけです。
5.お腹を見せる
犬がお腹を見せる行動にはいくつかの意味がありますが、その中でも叱られている時、または叱られそうになった時にお腹を見せるのは、「興奮しないで!」というサインです。
お腹を見せる行動には「服従の意思表示」という意味もあるため、それを知っている飼い主さんが、以前お腹を見せたら叱るのをやめてくれたという経験を覚えていたのかもしれません。
犬を叱る時の適切な対処法
飼い主さんがどんなに真剣でも、犬にとって叱られていることは理解できてもその理由を理解するのは難しそうだ、ということが分かりました。しかし、きちんとルールを覚えてもらわなければ、人間社会の中で生活できません。
そこで、犬に理解してもらうための適切な叱り方について考えてみましょう。
感情的・暴力的にならない
愛犬を叱る時は、感情的になったり暴力的になったりしてはいけません。普通に叱っているだけでも、愛犬には怒っていることが十分に伝わり、恐怖を感じています。そこに輪をかけるようなことをしても、信頼を失うだけで本来の目的は果たせません。
過去のことは叱らない
犬は、単語の意味を理解できても、飼い主さんの言葉を文章として理解することはできませんし、自分の過去の行動を振り返るということもしません。そのため、過去の行為に対して叱られても、それを理解することができません。
犬は、「○○をする=嫌な思いをする」という経験を記憶することで、「○○はしない方が良い」ということを学習します。つまり、犬が悪いことをした直後に叱るのでなければ、意味がないのです。
低めの声で簡潔に短時間で叱る
高い声を出すと、犬は「飼い主さんが喜んでいる!」と勘違いしてしまうことがあります。犬に誤解させないために、低めの声で叱りましょう。
また、犬を長々と叱っても、犬は叱られている理由を理解することはできないため、いたずらに怖がらせるだけです。叱る時は「簡潔に短時間で」を心掛けましょう。
名前を呼ばない
「名前を呼ばれる=叱られる」という思考回路を作らないように、叱る時には愛犬の名前を呼ばないようにしましょう。
まとめ
一般的に、人間は言葉でコミュニケーションを図ります。また、過去の行動を振り返ったり、積極的に反省し、その行動を改善しようとします。
しかし、犬は言葉で考えることはありません。過去の記憶を振り返ることも、自分の行為が間違っているといったような考え方もしません。
人間と犬は、長い間近くで寄り添いながら暮らしてきましたが、それでもお互いを完全に理解し合えているわけではありません。その点を踏まえて、上手に愛犬とコミュニケーションを図り、お互いが快適に暮らしていけるようにしたいものです。