1.子どもから犬への関わりが心理的発達に与える影響を調査
犬と暮らすことが子どもに及ぼす影響についての研究は、アレルギーやぜん息など身体的な疾患との関連を調査したものが多く、心理的発達や子どもの感情に関するものはあまり多くはありません。
この度イギリスの西スコットランド大学の心理学の研究チームが、子どもからの犬への愛着や犬に対する行動と、健全な心理的発達との関連についての調査結果を発表しました。
調査のためのデータ収集には、保護者と子どもたち自身を対象にしたオンラインアンケートが利用され、不完全な回答を除いた保護者117人子ども77人の回答が集計されました。
2.子どもの精神的健康や犬への愛着に関する質問でデータ収集
アンケート調査への参加者はソーシャルメディアや公共広告、学校のニュースレターなどを通じて募集されました。参加条件は子どもと保護者の両方の同意を得ていること、子どもの年齢が7歳から13歳であること、少なくとも1匹の犬を飼っていることでした。
回答した子どもの平均年齢は10歳で、女子57%男子43%、犬の所有期間の平均は31ヶ月、複数の犬を飼っている場合は回答者の子どもとの関係が最も近い犬を想定して答えるよう指示されました。
保護者への質問は「ペットの入手先」「子どもは犬の選択に協力したか」「子どもは犬を自分のものだと考えているか」など基本的な関係性の他に、子どもから犬への態度や行動について「全く見られない」から「非常によくある」の6段階で評価されました。
態度や行動はポジティブなものとネガティブなものに分かれており「犬を撫でる」「犬に話しかける」「犬が寝ている時はそっとしておく」などがポジティブ、「犬に怒鳴ったり叫んだりする」「犬に物を投げつける」などがネガティブです。回答からポジティブ行動とネガティブ行動の平均頻度が算出されました。
保護者への質問ではさらに子どもの精神健康性について6段階での評価が求められました。例えば、思いやり、短気、恐怖心、共感性などについてです。
また、怒った時や悲しい時の感情の調節能力についても6段階の評価が求められました。これらは子どもの精神的健康問題の評価に広く用いられているものです。
子どもたちへの質問は犬への愛着に関するもので「全くない」から「非常によくある」の4段階での評価が求められました。例えば「犬を友達として話しかける」「犬は家族の一員だと考える」「犬といると安心する」などです。これらの回答から犬への愛着スコアが算出されました。
3.子どもから犬への愛着や態度が一定の指標となる可能性
集計された回答を分析すると、愛犬への愛着が強い子どもは犬に対するポジティブな行動が見られる頻度が高く、精神健康性や感情調節における問題が少なかったことがわかりました。
逆に愛犬への愛着が低い子どもはネガティブな行動が見られる頻度が高く、精神健康性や感情調節において問題ありのスコアが高くなっていました。
この研究ではサンプル数が少ない点に注意が必要ですが、子どもの心理的発達という面から見れば、子どもが動物に積極的に関わり世話をすることが有益な影響を与えるという可能性が考えられます。
しかし子どもの心理的発達は非常に複雑であるため、動物との関わりはその一部に過ぎないと意識することも大切です。
一方、犬の福祉という面から見れば「愛着の低さ(または不安定さ)」「ネガティブな行動」「感情調節の困難さ」などに注目することは動物虐待防止にとって重要な意味を持つ可能性もあります。
子どもが家庭のペットにどのように接するかが行為障害の指標となる可能性もあり、さらに研究が必要であるとしています。
過去の精神病理学の研究では、すでに行動障害を示している子どものグループに焦点を合わせる傾向があったそうですが、この研究では一般の集団に焦点を合わせているのが大きな違いです。
なおアンケート調査の参加者の子どもたちのほとんどは愛犬に対して最高レベルの愛着を示しており、犬に対するネガティブな行動の割合は全体的に非常に低いものでした。
まとめ
子どもと保護者へのアンケート調査から、犬への愛着が強い子どもは行動面、精神の健康、感情の調節において問題が少ないという結果が示されたことをご紹介しました。
このような研究は人間とペットのポジティブで安全な関係を作るための策を開発したり、実際の対策の評価をしたりする際に重要な意味を持ちます。子どもと動物の両方が健全で幸せでいるための研究とも言えますね。
《参考URL》
https://doi.org/10.3390/bs12040109