様々な国の犬たちの腸内細菌叢を比較した調査結果

様々な国の犬たちの腸内細菌叢を比較した調査結果

家庭のペットの犬とはかなり違う生活環境で暮らす犬たちの腸内環境はどのようなものなのでしょうか?4カ国の環境の違う犬たちの腸内環境を比較調査した結果が報告されました。

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家庭犬とは違う生活をする犬たちの腸内環境

地球儀と並んだ子犬

人間と同じように犬にとっても腸内環境を作る微生物は、身体機能や健康状態に大きな影響を及ぼしています。そのため、犬の腸内細菌についての研究も数多く行われています。

それらの研究のほとんどは家庭で飼われているか、研究施設で飼育されている犬たちが対象になっており、対象の犬たちが食べているものはほとんどの場合がペットフードです。しかし世界全体で見れば、家屋の中で暮らしペットフードを食べているという生活をしていない犬もたくさんいます。

これまでの主な研究対象だった家庭犬と違う環境で暮らしている犬の腸内細菌については、ほとんど研究が行われていませんでした。

そこで、さまざまな違う環境の犬の腸内細菌研究のため、アメリカのイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の統合生物学部の研究チームが、インド、ラオス、南アフリカでそれぞれ異なる生活様式を持つ犬の腸内細菌の調査を実施し、その結果が報告されました。

3カ国の犬たちと研究施設の犬のサンプルを採取

ラオスの犬のクローズアップ

多様な腸内環境のデータを集めるために、研究チームはインドの保護施設の犬および野良犬、ラオスの農村で放し飼いにされている犬、南アフリカでペットとして飼われている犬の糞便サンプルを採取しました。

インドのサンプルは保護施設で生活している犬20頭と野良犬14頭のものでした。保護施設の犬たちの食事内容は米、レンズ豆、ヨーグルト、ドッグフードの混合です。

また野良犬は路上で保護されて施設に来たばかりの犬たちで、到着後2〜3時間以内の便が採取されました。野良犬の食事内容は不明ですが、人間の残飯を食べていた可能性が高いと考えられます。

ラオスでは、農村の集落で放し飼いにされている犬28頭のサンプルを採取しました。これらの犬の食事は大豆、トウモロコシ、キャッサバ(タピオカの原料)、タケノコ、もち米、ソルガム、近くの川の魚などです。

南アフリカでは都市部、郊外、農場の3つの違う地域で飼われているペット犬のサンプルを採取しました。これらの犬の食事は市販のドッグフードでした。

また、比較のために同大学の研究施設で飼育されているビーグル4頭のサンプルも採取されました。

ビーグルたちは普段はドッグフードを与えられていますが、1度目のサンプル採取の後にラオスの犬の食事を再現したキャッサバ、ソルガム、タケノコ、とうもろこし、もち米、ナマズ、大豆を2週間与えられた後のサンプルも採取されました。

さらに古代の犬の糞便サンプルとの比較も行われました。これらは米国イリノイ州の遺跡から出土した約1000年前の犬たちのもので、犬たちは穀物、野生の植物、川魚を食べていたことが分かっています。

それぞれのグループに特徴的な腸内細菌集団

フードを食べているビーグル

それぞれの糞便サンプルの微生物集団の遺伝情報を分析し比較した結果は興味深いものでした。

腸内細菌の多様性が最も高かったのは、ドッグフードを一切食べていないラオスの犬たちでした。これは人間の腸内細菌叢の研究において都市部で加工食品を多く食べている人々よりも、農村部で加工食品をあまり食べていない人々の方が腸内細菌の多様性が高いことと一致しています。

またラオスの犬の腸内細菌叢は、アメリカの1000年前の犬たちとよく似たものでした。ラオスの犬とアメリカの古代の犬の食生活はよく似ているので、これは納得のいく結果と言えます。

しかし、2週間にわたってラオスの犬の食事を再現したものを与えられたビーグルたちの腸内細菌叢は、ラオスの犬のものとはあまり似ていませんでした。もちろんドッグフードを食べていた時に比べると細菌の分布に変化があったのですが、ラオスの犬たちの腸内細菌の多様性には遠く及びませんでした。

これは腸内細菌の多様性を高めるためには食事だけでは不十分であり、環境や行動も影響していることを示しています。

他には、インドの犬は保護施設も野良犬も他のグループに比べて乳酸菌種の多様性が高かったことも分かりました。南アフリカの乳製品を与えられていた一部の犬も乳酸菌種の多様性が高くなっていました。

このように各グループで腸内細菌の集団に種類の違いが見られたのですが、腸内細菌の代謝機能には違いが見られませんでした。食事や環境によって細菌の種類は違っても、犬のお腹の中の細菌たちは同じように働いているということです。

上記のインドと南アフリカの犬の乳酸菌種は違うものでしたが、同じ機能を持っていると考えられます。

まとめ

採取する手と犬

インド、ラオス、南アフリカ、アメリカの研究施設の犬たちの腸内細菌を分析調査し比較した結果をご紹介しました。腸内細菌は世界的な多様性があるものの、代謝機能においては同じ働きをしていることも分かりました。

加工食品の摂取、食物以外の環境が腸内環境に及ぼす影響が人間と共通していることから、ここでも犬の研究が人間の医療に応用できる可能性も示されました。

腸内環境は健康の大きな土台です。このような研究で新しいことが明らかになるのは頼もしいことですね。

《参考URL》
https://doi.org/10.1098/rspb.2022.0052

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