犬の性格はどのように作られるか
夏目漱石の『吾輩は猫である』の中で、主人公である名前のない猫が『どのネコも自家固有の特色などはないようであるが、ネコの社会にはいってみるとなかなか複雑なもので、十人十色という人間界のことばはそのままここにも応用ができるのである。』という一文があります。猫は見た目も性質も、人間同様同じものは一つもない、ということをあらわしています。
これはもちろん、犬の社会にも当てはまります。犬が10頭いれば10頭のそれぞれが、皆異なる性格をしています。この性格は、どのように作られるのでしょうか。
一般的に、犬の性格は次の3つの要素が関連して作られていると言われています。
【1】遺伝的に生まれ持っている先天的な性質
【2】社会化期(生後3〜16週)の間の経験
【3】その後の経験
【1】がその犬の性格の核となり、その後【2】によって性格のベースが作られ、【3】によって少しずつより強固な個性として作られていきます。特に【2】に挙げた社会化期での経験が大切で、社会性のある性格になるか、警戒心が強く人見知りな犬になるかのベースは、この時期の経験が大切だと言われています。
社会化期を過ぎた犬の性格を育て方で変えられるか
前述の犬の性格を作る3要素のうち、基本的に変えることができないのは【1】の「遺伝的に生まれ持っている先天的な性質」です。もちろん、その後の経験で多少変わることはあっても、根本的に神経質な犬は神経質なままだし、好奇心旺盛旺盛な犬が何にも興味を持たなくなることは、病気以外にはないと考えても良いでしょう。
また、【2】で身につけた社会性も非常に影響が大きく、その後の性格のベースになっていると考えて良いと思います。しかし、その後の経験が【2】で得た社会性を歪めてしまったり、逆に社会性のなかった犬に社会性を芽生えさせたりすることも可能です。
この、変えられる部分と変えられない部分を十分に意識した上で、その犬の性格に合わせた暮らし方をすることで、良い面をさらに伸ばし、かつ改善したい面も少しずつ改善していくことができるでしょう。
寂しがり屋やな犬との暮らし方
それでは、寂しがり屋の犬と一緒に暮らすには、どのような暮らし方が適しているのかについて考えてみましょう。
寂しがり屋の犬の特徴は、飼い主さんのことが大好きでどこにでもついていき、逆に飼い主さんの姿が見えなくなると慌てて探しだすといった点だといえるでしょう。飼い主さんにとっては自分がいないと寂しがる点が愛おしいでしょうが、この点が増長してしまうと、「分離不安症」という精神的な病気につながってしまうかもしれません。
「分離不安症」とは、飼い主さんの姿が見えなくなると「もう帰ってこないのではないか」と不安になり、その不安から物を破壊したり吠え続けたり粗相をしたりといった問題行動を起こしてしまう病気です。
寂しがり屋の犬を分離不安症にさせないためには、「飼い主さんは、出掛けても必ず帰ってくる」と信頼させることが大切です。「寂しがるので独りにはしない」のではなく、ごく短い時間から初めて留守番の練習をするようにした方が良いでしょう。
また、一緒にいる時にも常にベッタリと構いすぎるのではなく、一人で自由にさせる時間を作るように意識しましょう。たとえば知育玩具を与えることで、独りで遊ぶのも楽しいことだと覚えさせるのも良いでしょう。
あまり構いすぎるのではなく、適度な距離感を保った関係性を築けるように暮らすことが大切です。
人見知りな犬との暮らし方
人見知りな犬の特徴は、飼い主さんやご家族以外の人や動物と上手にコミュニケーションをとれないという点です。消極的で硬直してしまうようなタイプであれば、他人に迷惑を掛ける心配はありませんが、犬自身にとってはとても大きなストレスでしょう。
恐怖心から吠え続けたり攻撃的な態度になってしまうタイプの場合は、近所トラブルの原因にもなりかねません。
まず来客時への対応としては、室内にクレートなどの「愛犬が落ち着ける専用の場所」を作ってあげることです。そして、来客の際にはそこで過ごすようにさせましょう。
散歩の途中で出会った、愛犬に近づいてくる人への対応としては、愛犬が人見知りだということを伝え、むやみに近づいたり触ろうとしないようにしてあげてください。そのうえで、他の人や動物と接触する機会を断ってしまうのではなく、できる範囲からコミュニケーションの機会を作ることを考えてみましょう。
信頼のおける知人に協力を求め、少しずつコミュニケーションを図るトレーニングをするとか、定期的に動物病院で健康チェックを受ける習慣を作る、犬のしつけ教室を利用するなど、愛犬の人見知り度合いのレベルに合わせた方法をみつけてあげましょう。
まとめ
人と一緒に暮らしている犬達が、皆理想的な環境で穏やかに暮らしているわけではありません。生まれ持った性質、社会化期における生活環境や経験、そしてその後の経験から、社交的で穏やかな性格の犬もいれば、警戒心が強く激しい人見知りの犬もいるでしょう。寂しがり屋が度を越して、分離不安症になりかねない子もいるかもしれません。
しかし、飼い主さんが愛情を持ち、そして愛犬の性格を見極めた上でその犬にあった暮らし方をすることで、その犬の良い面をさらに伸ばし、改善すべき点は少しずつ改善していくことができるはずです。
必要に応じて、ドッグトレーナーなどの専門家の力を借りるのも良いでしょう。何よりも、愛犬にとって無理強いして余計なストレスをかけないような暮らし方を考えてあげましょう。