外国から輸入される犬が問題視されている点とは?
近年、世界の多くの国で他国から輸入されて来る犬が増えています。アメリカでは毎年およそ106万頭、イギリスでは約34万頭の犬が国境を超えて輸入されています。
これらの犬は商業的に販売するために輸入されていることもあれば、動物保護団体などが他国で保護し里親募集のために輸入するという場合もあります。
またパンデミックの際に世界各地でペットブームが起こり、インターネットで動物を購入する人が増えたことも輸入増加の一因となっています。
犬の元々の出身国によっては動物の飼育方法の規制が非常に緩い(または規制が無い)こともあるため、輸入された犬について専門家を中心に心配する声が多く上がっています。
獣医学の分野では感染症、寄生虫などが持ち込まれるリスクが懸念されています。人獣共通感染症の中でも最も恐れられているのは狂犬病です。繁殖のための病気のスクリーニングなども行われていない場合が多く、遺伝性疾患が増える心配もあります。
劣悪な飼育環境で社会化不足の犬も多いため、行動上の問題も心配されています。このように健康と行動の面で問題が予想される他国からの輸入犬について、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学の動物福祉の研究者チームが、輸入犬の飼い主とカナダ出身の犬の飼い主、それぞれの犬との関係を比較した調査結果を発表しました。
カナダには輸入した犬を管轄する正式な機関がないため、輸入されている犬の正式な数は不明なのですが、カナダの動物の専門家は毎年数千頭が輸入されていると推定しています。
国内犬と輸入犬、飼い主との関係性を調査
調査はブリティッシュ・コロンビア州の犬の飼い主を対象にしたオンラインアンケートで実施されました。
アンケート調査は2回実施され、1回目は犬の出身地や出自(ブリーダー、保護施設、野良犬など)、犬と飼い主の関係を測るための標準化された質問群、トレーニング方法、飼い主が犬に期待すること(コンパニオンシップ、使役犬など)犬の健康状態についての回答が集められました。回答者は803人で、そのうち7%がカナダ以外の国出身の犬の飼い主でした。
2回目の調査はもう少し掘り下げた質問が設定され、犬の問題行動、トレーニング方法、健康状態、犬への愛着、犬を飼うことの負担についての回答が集められました。回答者は878人で、そのうち13%がカナダ以外の国出身の犬の飼い主でした。
犬の出身よりも影響の大きいこと
計2回の調査結果を統計的に分析した結果、カナダ出身の犬とその飼い主、輸入された犬とその飼い主、それぞれの関係性の質は同等であることが分かりました。
「輸入された犬と飼い主の関係性は問題があることが多い」という証拠はありませんでした。犬の問題行動や健康問題の発生状況も2つのグループに大きな違いはありませんでした。
カナダ出身の犬の飼い主は輸入犬の飼い主よりも嫌悪刺激を使うトレーニング方法を採用している率が高く、犬への期待値も高いことが分かりました。また出自の不明な犬の飼い主はブリーダーから犬を迎えた飼い主よりも、嫌悪刺激を使うトレーニングを採用している率が低いことも分かりました。
この調査の結果は、犬と飼い主の関係性の質を決定するのは、犬の特性よりも飼い主の態度が大きな役割を果たすことを示しています。これは過去の他の研究結果とも一致しています。つまり外国から輸入された犬であるから飼い主と良い関係が築けないとか、問題行動が多いとは言えないということです。
ただし輸入犬の中には8週令未満(ワクチン未接種)で引き取られた犬も相当数いたことから、輸入される犬の福祉、健康、公衆衛生の面からは犬の輸入は注意が必要だとしています。研究者はこれらの面での調査の必要性に言及しています。
まとめ
世界各国で他国からの犬の輸入が増えている中、カナダでの国内出身犬と輸入犬の飼い主との関係性などを比較調査した結果をご紹介しました。
この調査結果の重要な点は、犬の行動や飼い主との関係性には国内出身か他国出身かはあまり影響しておらず、飼い主から犬への態度が果たす役割が大きいと示されたことです。すでに一緒に暮らしている犬との関係性を考える時にも心に留めておきたい大切なことです。
《参考URL》
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0268885