犬の咬傷事故を防ぐための対策研究
犬による咬傷事故は、世界の多くの国でさまざまな取り組みが実施されています。しかし、事故防止のために制定された規制や法律が現代の科学的な視点とずれたものであったり、飼い主に求められる責任が効果のないものである場合も少なくありません。
イギリスでも危険犬種の飼育規制など咬傷事故を防ぐための対策が取られていますが、犬に咬まれて入院する人が毎年7,000人以上もいる状態です。
このような現状を受けて、犬による咬傷事故を減らし責任ある飼育を促進するための対策について調査研究が実施され、その結果が報告されました。
この研究に携わったのはノッティンガム・トレント大学の犯罪社会学者、ミドルセックス大学の法学者、ウェストミンスター大学の社会学者という、一見すると犬とは関係のない分野の研究者ですが、報告の内容はたいへん興味深く面白いものでした。
また研究にあたっては、警察、地方自治体、動物福祉官、獣医師、動物行動学者、動物保護団体、ドッグトレーナー、ドッグウォーカーなどとの協議が重ねられました。
「危険な犬」を取り締まる法律の見直し
この研究では犬の咬傷事故を防止するための既存の法律の問題点に注目しています。
1991年に制定された危険な犬に関する法律は、特定の犬種の飼育禁止、どの犬種であれ犬が制御不能になった場合に、飼い主が刑事罰の対象となることを定めています。
しかし研究参加者から提供された証拠も、研究者が分析した文献の数々も、どの犬種が行動上の問題を起こす可能性が高いかを特定することの困難さを示していました。また、危険と特定されていない犬種による咬傷事故も数多く報告されています。
「制御不能な犬の行動」についても、単純にその場で強制的に制御するだけでなく、犬の社会化の有無、犬が感じた恐怖、人間が与えた刺激などが関連しており、飼い主や管理者による個々の犬の特性やニーズの理解を考慮する必要があるとしています。
1991年の「危険な犬法」は実状に沿っていないこと、咬傷事故防止の役割を果たしていないことが示された形になりました。この法律に対しては改正を求める委員会が立ち上げられており、そこでもこの研究結果が強調されています。
飼い主の「責任ある行動」が咬傷事故を防ぐ
この調査報告では、犬が適切に社会化され犬としての適切な行動が与えられていれば、多くの咬傷事故が防げることを示しています。
逆に言えば、恐怖やストレスが常態化しているような不適切な状況に置かれた犬が不適切な扱いを受けた場合に問題となる行動が起きることを、飼い主が知っていなくてはいけないということです。
犬の咬傷事故の多くが家庭内で起きており、その多くが犬のニーズを考慮しない、犬の行動に対する誤解や理解不足によります。
「責任ある行動」とは犬を鎖でつないで飼うことではなく、何が犬の攻撃を誘発するのかを知ること、そのような状況を作らないことなど知識と理解が強調されています。
咬傷事故が起きてしまった場合の裁判所や警察の対応についても提案がされています。
- 犬の飼い主に対して犬の行動トレーニングへの参加を裁判所命令できるようにする
- 咬傷事故の記録を作る際に、環境や人間の行動について記載するよう改善
- 新しく犬を迎える際に、過去に不適切な飼い方の記録がないことを証明する義務付け
この調査報告の著者は、犬の咬傷事故の重要な要因として人間の行動を強調しています。すべての咬傷事故を犬の「攻撃的な行動」と見なすべきではなく、さまざまな状況や要因を考慮すべきとしています。
まとめ
イギリスの犯罪社会学や法学の専門家による犬の咬傷事故防止対策のための研究から、飼い主の責任とは何かについて述べた箇所をご紹介しました。
犬の飼い主としての責任ある行動とは、毎日食事を与えてリードをつけて散歩に行くだけでは不十分なのだということがよく分かる内容です。犬について知識と理解を深め、犬のニーズを満たすことが犬と飼い主と社会全体にとっての利益につながるということです。
《参考URL》
http://randd.defra.gov.uk/Default.aspx?Module=More&Location=None&ProjectID=19861