犬の糖質制限はアリ、とも言える
現代の犬は肉食に近い雑食です。人間よりもタンパク質を多く必要とする体質です。しかし犬は、オオカミから進化する過程でオオカミとは少し違う食性を持つようになり、体もそれに合わせてより炭水化物(でんぷん)を消化できるようになっているそうです。
極端に炭水化物が少ない食事は、犬にとって理想的ではないけれども生きていくことができる食事だそうです。ドッグフードでは、食物繊維が適量含まれていれば、炭水化物がどの位含まれているかではなく、脂質やタンパク質がどの位含まれているかが問題となります。
つまり、成長期や激しい運動をする犬、病気からの回復中の犬などで高脂肪高タンパク食が与えられる場合、それは結果的に低炭水化物となり、そういう意味で犬でも糖質制限はアリです。
犬の食事について、糖質制限や低炭水化物食が良いと言われる時、人間で糖質制限ダイエットが成功した例や犬はもともと肉食だからという話が根拠として挙げられていると思います。
しかし、上記のように犬は炭水化物をある程度消化吸収してきちんと栄養源として利用できる動物ですので、タンパク質以外に炭水化物や脂質なども、適量を摂取する必要があります。
糖質制限のメリット。これって本当?
1.消化器官の負担が少なくなる
「犬はタンパク質の消化は得意だけど、糖質の消化は苦手。」とか「糖質を分解するには消化酵素のアミラーゼが必要だけど、犬にはアミラーゼが少ない。」などとして、炭水化物を与えると犬の消化器官の負担になる、と言われることがあります。
確かに人と違って犬の唾液にはアミラーゼは含まれません。しかし、膵臓がアミラーゼを分泌していて、炭水化物(でんぷん)を十分に消化することができます。
また、犬はカロリーの最大75%までを炭水化物から摂取しても大丈夫と言われていますので、単に炭水化物が多いと消化器官の負担になる、または糖質制限をすると消化器官の負担が少なくなる、とは言えないでしょう。
「米や小麦などの穀物が含まれるフードでお腹を壊すことが多かった犬が、穀物を含まないグレインフリーのドッグフードに変えたら調子が良くなった。」という体験談が多くあるようです。
グレインフリーのフードとは、小麦やとうもろこし、米、大豆などの穀物を使わずに作られたフードで、高タンパクを謳っていることも多いようです。しかし、グレインフリーのフードは炭水化物を含まないフードというわけではなく、多くのグレインフリーフードでは豆類やいも類などを炭水化物源として使っています。
グレインフリーのフードで体調が良くなる犬の場合、必ずしも炭水化物が少ないことが良かったとは限らず、たまたまそのフードが体質に合っていた(食物繊維の種類や量、他の原料や成分などによって)、そのフードには含まれていない穀物にアレルギーを持っていたことなども考えられます。
犬の食物アレルギーは穀物に対するものよりも肉類に対するものが多いそうですが、大豆や小麦などの穀物にアレルギーを持つ犬もいます。また、犬の食物アレルギーは皮膚のかゆみや赤みだけではなく、嘔吐や下痢、軟便などの消化器症状となって現れることがあります。
糖質は炭水化物の一種です。糖質以外の炭水化物は食物繊維になります。人の糖質制限ダイエットでも、糖質を制限するために炭水化物全体を制限する方法が多くとられているので、食物繊維不足にならないように注意する必要があります。
犬でも、手作り食で糖質制限をしたり低炭水化物フードを与える場合、食物繊維が不足して消化器官の不調を起こさないようにする必要があるでしょう。
2.がんの進行を遅らせる?
「がん細胞は糖質をエサにして成長するので、がんの犬が摂取した糖質は健康維持に使われず、がんに奪われてしまう。がんになった犬の食事では糖質を控えると良い。」とよく言われますが、これは科学的根拠に乏しく、犬においても人においても世界的に誤って信じられていることだそうです。
一部、試験管内での実験結果として示されていることもあるそうですが、がんを持つ人や犬で糖質制限をする有効性は確認されていないそうです。
がんが糖質(グルコース)をエサにするのは事実ですが、正常な細胞もグルコースをエネルギー源としています。
がんを持つ犬の食事で最も大事なことは、必要な栄養を十分に摂り、適切な体重を維持することです。そのため、高脂肪や高タンパクの食事となり、結果的に糖質が低い食事となることはあるでしょう。
3.ダイエット効果がある?
人でも糖質制限ダイエットの賛否が分かれる中、成功例もたくさんあるようです。しかし犬にダイエットさせたい場合に糖質制限が有効かどうかは、全く分かっていません。
犬のダイエット用フードの成分を見ると、脂質を減らし、満腹感を得るためや腸内環境を改善するためなどに食物繊維を増やし、他にも少量で満足感を与える工夫をされたものが多いようです。
糖質制限のデメリット。これって本当?
1.腎臓の負担が増える
腎臓は体内の毒素を尿として排出する大切な役割をしています。体内の毒素とは、タンパク質を利用した後の窒素を含む残りかすが主となります。
「糖質を制限する」ということは、糖質から得ていた分のカロリーをタンパク質また脂質で補うことになり、一般的に低炭水化物のフードは高タンパクなため、腎臓への負担が増えてしまいます。
しかしこれは、健康な腎臓を持つ犬では問題にはなりません。高タンパクな食事によって腎臓の負担が増えることが問題となるのは、腎機能が低下している場合だけです。
そのため、腎臓病の犬では、タンパク質の量を減らした食事を与えるように指示されることがあります。
2.腸内細菌のバランスが崩れる
腸内には善玉菌、悪玉菌などが存在し、善玉菌は消化や免疫を助ける働きをしています。腸内の菌のバランスが崩れると、腸内環境が悪化します。
善玉菌は炭水化物である糖質や食物繊維を主なエサとします。糖質を減らすということは、同時に食物繊維も減らしてしまうこともあり、善玉菌のエサを減らしてしまうので善玉菌も減ってしまいます。
一方、悪玉菌はタンパク質を主なエサとします。タンパク質は体を維持するには必要な栄養素ですが、多く摂取すると悪玉菌が増えやすくなってしまいます。
つまり、糖質制限する場合、メリットの1.消化器官の負担が少なくなる?でお話ししたように、食物繊維までもが不足すると腸内細菌のバランスが崩れて下痢や便秘などを起こす可能性があるので、注意が必要です。
腸内細菌のバランスが崩れると、便秘や下痢などの消化器の不調が起こりやすくなるだけではなく、人においては腸内細菌の乱れは、肥満やアトピー性皮膚炎などの様々な病気に関連すると言われています。
腸内環境を良くするためにも、極端な糖質制限、低炭水化物食にはせず、栄養素をバランス良く摂取しなければいけません。
まとめ
糖質制限に関連したこととして、グレインフリーのドッグフードが話題となっています。しかし、犬の食性は祖先であるオオカミと全く同じではないですし、まだ不明なことが多いもののグレインフードとの関連が疑われている病気もあります。
犬における糖質制限については、科学的に分かっていることはあまりなさそうですので、人で話題になっていて健康に良さそうだからと、自己判断で特定の栄養素を制限した食事は与えない方が良いでしょう。
市販のドッグフードを与えている場合には、低炭水化物を謳っているフードでもそうではなくても、犬自身が健康で元気に過ごせているかどうかが、そのフードを与えていて良いかを判断する一つの基準となるのではないでしょうか。
もし、フードを変えて以降、体調が悪い(下痢や軟便、嘔吐、運動量が減ったなど)ようであれば、フードに関連した異常である可能性もありますので、以前に食べていたフードと現在食べているフードの情報を確認し、動物病院を受診しましょう。
またダイエットをするには「食事制限」と「運動」が必須ですし、急激に体重を減らすことは逆に体調を崩すことにつながります。
ダイエットさせたい場合には、手作り食での糖質制限や低炭水化物フードを利用するのではなく、動物病院に相談してダイエットに実績のあるフードを紹介してもらい、またダイエット計画も相談して作りましょう。
また、自分以外の家族が知らないうちにおやつをたっぷりあげていないか、フードの量は適正体重に合わせた量をきちんと測って与えているかなども見直してみましょう。
運動量を増やすためには、散歩で抱っこをする時間やカートに乗せる時間が長くて犬自身の運動量が少なくないか、散歩以外でもできる遊びがないかなどを見直してみましょう。