早期発見が重要なレプトスピラ症
レプトスピラ症という感染症は、犬の混合ワクチンに含まれている場合もあり名前を聞いたことがあるという方は多いのではないでしょうか。犬では細菌に感染したネズミなど、野生動物の尿で汚染された水や土壌を介した感染が多く見られます。また、人間も感染する人獣共通感染症でもあります。
感染した場合の症状は、食欲不振、発熱、嘔吐、下痢、などから腎不全、肝不全、肺出血などへと進み、診断や治療が遅れた場合は命にも関わります。そのため早期発見が非常に重要なのですが、従来の検査は初期段階では感度の低い上に、検出に2週間以上かかることもあります。
この度アメリカのカリフォルニア大学デービス校獣医学部の研究チームが、人工知能を利用して、この2つの問題を解決した犬のレプトスピラ症を発見する技術を開発しました。
人工知能が迅速で正確なスクリーニングを実現
研究チームは、まず人工知能による機械学習型予測モデルを作成しました。
このモデルが学習していくためのデータには、UCデービス獣医学病院でレプトスピラ症の検査を受けた413頭の犬の定期的な血液検査の結果が使用されました。413頭のうち91頭はレプトスピラ症が確認され、322頭はレプトスピラ症ではありません。
これらの犬のデータを使って予測モデルを学習させた後に、同病院で新たに受け付けたレプトスピラ症の疑いのある53頭の犬のデータをテストしました。予測モデルは53頭のうちレプトスピラ症陽性であった9頭の犬を全て正しく識別しました。陰性だった44頭については90%を正しく識別しました。
この機械学習型予測モデルは従来の血清学的検査よりも効率良く、犬のレプトスピラ症の可能性を診断する早期スクリーニングを提供することができると、研究者は述べています。
人間の診断にも応用が期待
レプトスピラ症は人獣共通感染症であり、人間にとっても命を脅かすことがあります。また診断が難しいのも犬の場合と同様です。この予測モデルを開発した研究者は、この技術が人間の医療にも応用されることを期待しているとのことです。
最終的にはレプトスピラ症をリアルタイムで検出できることを目標としており、人工知能の手法を応用して他の感染症の診断にも役立てることも視野に入れているとのことです。同研究チームは抗菌薬耐性感染症の予測モデルの研究も進めています。獣医学でも人間の医学でも期待が膨らみますね。
まとめ
従来は診断が難しく時間もかかる犬のレプトスピラ症のスクリーニングを、より迅速で正確に行う人工知能による機械学習型予測モデルが開発されたという報告をご紹介しました。
レプトスピラ症は日本も含めた世界中で見られる感染症です。感染した動物や人がさらに感染を拡大させることを防ぐためにも、このような早く正確なスクリーニング方法が重要です。
夏場は犬と一緒に山や水場に行く機会も増えます。かかりつけの獣医さんにお住まいの地域のレプトスピラの発生状況や種類を確認したり、必要に応じてワクチン接種を検討することも大切です。
《参考URL》
https://doi.org/10.1177/10406387221096781
https://www.ucdavis.edu/health/news/using-artificial-intelligence-predict-life-threatening-bacterial-disease-dogs
https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2345-iasr/related-articles/related-articles-436/6527-436r06.html