イギリスのチャリティ団体がインドで実施した画期的な狂犬病対策

イギリスのチャリティ団体がインドで実施した画期的な狂犬病対策

人間と動物の共通感染症である狂犬病は世界の多くの地域で深刻な問題で、さまざまな撲滅対策が研究されています。イギリスの団体とインドの自治体が共同で実施し成果を上げた対策についてご紹介します。

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狂犬病撲滅対策に取り組むチャリティ団体

インドの街並みを歩く2匹の犬

狂犬病はひとたび発症すると致命的な人獣共通感染症です。ほとんどの哺乳類が感染しますが、人間への感染の99%は狂犬病に感染した犬に咬まれたことが原因です。また狂犬病患者の60%は15歳以下の子供です。

世界の多くの地域で、狂犬病によって毎年多くの人が命を落としており予防や撲滅は重要な課題です。各国政府もそれぞれに対策を立てていますが、民間のチャリティ団体や研究機関との共同の活動がより効果的な成果を出している例があります。

イギリスのチャリティ団体『Mission Rabies』はインド、スリランカ、ウガンダ、タンザニア、マラウイで狂犬病撲滅のためのプロジェクトを実施しています。

この度、同団体とインドのゴア州政府、イギリスのエディンバラ大学が共同で実施したプロジェクトで狂犬病感染を大幅に減少させた実例について論文を発表しました。

狂犬病撲滅のための3つの柱「ワクチン、教育、監視」

注射器と犬

インドで狂犬病によって亡くなる人の数は、世界の狂犬病死亡推定値の約3分の1を占めているそうです。Mission Rabiesはそのような状況下にあるインドのゴア州において、州政府と共同で3種類の活動を柱とするプログラムを実施し高い効果を上げました。

3種類の活動とは犬へのワクチン接種、人々への狂犬病教育、人間と動物の狂犬病調査監視の強化です。3つのうちワクチン接種については言うまでもないことですが、それだけでは十分ではありません。

Mission Rabiesとゴア州政府が行った教育プログラムと狂犬病に対する集中的な監視は次のようなものでした。

1.ゴア州で実施された狂犬病教育プログラム

2014年から2019年にかけて約3万人の教員と約69万人の学童に対して、学校単位での狂犬病教育の授業を実施しました。

狂犬病という感染症についての知識、犬に咬まれないようにする方法、咬まれた場合の対処方法などが指導されました。また地域のコミュニティ全体に、自治体や公共イベントを通じて狂犬病についての指導が提供されました。

2.ゴア州での狂犬病調査監視システム

住民からの狂犬病の疑いのある犬の報告を一元的に管理するため、無料の狂犬病ホットライン電話サービスを開始しました。

ホットラインへの連絡で最も多かったのはワクチン接種の依頼だったのですが、狂犬病の疑いのある動物の通報により獣医師による現地調査、動物の調査、曝露した人への聴取が実施され、検査や診断のシステムが確立していきました。

このように報告〜検査〜診断の流れを調査監視することで、感染の発生数、発生地域、その地域のワクチン接種率などを効率的に把握し、ワクチン接種の対象となる人間を絞り込み死亡事故を防ぐことにつながりました。

スマホのアプリを活用したワクチン接種の管理

スマホのGPSアプリを使っている人

犬へのワクチン接種は狂犬病を管理する上で不可欠なものですが、インドでは飼い主のいない野良犬や放し飼いの犬が多いため、そのための特別な対策が必要でした。

犬のワクチン接種はワクチン接種チームが各地域を移動して実施しました。Mission Rabiesの研究チームは、ワクチン接種チームへの指示を出すためにGPSを使ったスマートフォンのアプリを開発し、その時点でワクチンが必要な地域に効率的にチームを派遣できるようになりました。

完全に屋内で飼育されている犬に対しては、戸別訪問でのワクチン接種が行われました。放し飼いの犬や野良犬については通常の保定ができない場合、網で捕獲してワクチン接種をしました。放し飼いや野良犬のワクチン接種の有無は目視によって行われました。

ワクチン接種の方法は改良を繰り返し、2013年から2019年にかけて年間9万5千頭以上の犬へのワクチン接種が達成されました。この結果、人間への感染を防ぐラインであるワクチン摂取率70%に達することができました。

これらの活動の結果、2018年と2019年にはゴア州における人間の狂犬病感染者はゼロに、犬の症例は92%の減少という素晴らしい成果が示されました。

まとめ

注射を受ける犬

インドのゴア州で、州政府とイギリスのチャリティ団体と研究機関が共同で行い高い成果を上げた狂犬病撲滅プログラムについてご紹介しました。

日本では狂犬病があまり身近な病気ではないためか、知識や関心が薄い犬の飼い主さんも少なくありません。法律で定められているワクチンも接種率の低下が心配されています。

ウクライナからの避難ペットの検疫問題で狂犬病への注目が集まったこともありましたが、犬の飼い主全般には行き渡らなかったようです。

インドに比べれば狂犬病感染へのリスクは低いとしても、この活動の教育プログラムや調査監視システムは日本でも役立つものです。犬と人間の両方を万が一から守るためにも、狂犬病ワクチンの重要性を全ての飼い主さんが認識しなくてはなりません。

《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41467-022-30371-y
https://missionrabies.com

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