犬は人間の声をどのように識別している?
日常生活の中で、愛犬が家族の声に反応するという経験は多くの人が持っています。また、犬は複数の家族のメンバーの声をそれぞれに聞き分けているようにも見えます。
人間の声は性別によって音の高さや声質に違いがあります。これは主に声帯の大きさの違い(一般的に男性の方が大きい)声道の長さの違い(声帯から唇までの距離、一般的に女性の方が長い)によります。
過去の研究では、犬は声の男女差を識別していることが分かっているそうです。しかし犬が「人の声」という音のうち、何を頼りに識別しているのかは分かっていませんでした。
この度イギリスのハル大学の心理学の研究チームによって、犬が声の高さや声質にどのように反応するかについて調査するための実験が行われました。
録音編集された声符への犬の反応を実験
実験に参加したのは一般募集された10頭の家庭犬でした。年齢は1〜15歳、オス6頭メス4頭でした。全員が「おすわり」「ふせ」「おいで」の声符(声によるキュー)に応えられること、聴力が良好であること、声符に反応する運動能力があること、飼い主ではなく実験者が出したキューにも応えることが確認されています。
実験は犬たちに録音した声符を聞かせて、その反応を分析するという形で行われました。録音された音声は21歳女性の声で「おすわり」「ふせ」「おいで」の3つのキューです。
この録音された音声を編集して「基本周波数を下げる=声が低くなる」「声道長を上げる=音質が変わる」「周波数と声道長の両方を調整して男性の声を作る」の3つのアレンジパターンを作り、オリジナルと合わせて4パターンの声符への犬の反応が分析されました。
犬は声の高さと声質の組み合わせに敏感
さて4パターンの録音声符への犬たちの反応はどのようなものだったのでしょうか。
オリジナルの女性の声と、調整して作られた男性の声のキューでは「おすわり」「おいで」では8割を超える正答率、「ふせ」では6割を超える正答率というほぼ同等の結果が示されました。
しかし「周波数だけを調整(声の高さ)」「声道長だけを調整(声質)」したパターンでは正答率が約10%低下しました。女性の声の高さだけ、または声質だけを調整した場合、聞こえる音声は不自然なものになります。この実験の結果は犬が人間の声の高さと声質、そして2つの正常な関係に敏感であることを示しています。
犬が人間の声の高さと声質の関係をどのように学習したのかは明確には分かりませんが、人間との生活の中で周囲の人間やテレビなどから経験的に学習した可能性が指摘されています。
研究者は犬と録音された音声両方のサンプル数の少なさなどから、この結果が限定的である可能性にも言及しています。しかし犬が声の主の性別を識別する際に、声の高さと声質の組み合わせを少なくとも手がかりの一部にしていると考えることは妥当だとしています。
まとめ
犬に録音した音声のキューを聞かせた結果、女性または男性と識別できる音声では正答率が高く、声の高さまたは声質のどちらかだけを調整した音声では正答率が下がったという実験の結果から、犬は人間の声の高さ、声質、その組み合わせのそれぞれに敏感に反応するという報告をご紹介しました。
犬が人間との生活の中から、異種の生き物である人間の声について学習していると思うと感嘆と愛しさの両方を強く感じさせられます。
《参考URL》
https://doi.org/10.1007/s10071-021-01567-4
https://doi.org/10.1016/j.cub.2014.10.030