1.DVを発見するために専門家が文書を公開
動物への虐待行為が犯罪を発見する手がかりになる可能性の高さは、近年よく知られるようになって来ました。しかし、ドメスティックバイオレンス(DV)と呼ばれる家庭内での暴力とペットへの虐待は外部からは見えにくく、その関連もあまり浸透していません。
先ごろ、イギリスの児童福祉の専門家とアメリカの家庭裁判所の判事がそれぞれにDVを早期発見し、被害者を保護するためにペットの犬や猫に注目することを薦める文書を公開しています。
楽しい話題ではありませんが、多くの人が知っておきたい問題です。
2.ペットへの暴力は家族へのDVのシグナル
イギリスの児童福祉の中でも虐待されている児童の保護に長年携わっているある専門家は、ペットの犬や猫への虐待が、子供や配偶者が虐待を受けている可能性があるというシグナルになることが多いと指摘しています。
家庭内の人間への直接的な暴力がなくても、ペットの動物が傷つけられるのを見ることは家族のメンバー(特に子供)にとって感情的に有害で精神的な虐待となります。また虐待をする者が被害者をコントロールし命令するための手段として、ペットを利用することも珍しくありません。
アメリカの家庭裁判所で虐待された児童の保護先を指定する立場にあるベテランの判事もほぼ同じことを指摘しています。
動物への虐待はそれ自体が違法行為ですが、家庭内でペットへの虐待がある場合にはそれだけを独立した犯罪として完結するのではなく、専門家が視野を広くして観察することで、家庭内の虐待の被害者と動物の両方を救うことにつながると提言しています。
3.専門家や法整備の面での対策
被害者や児童の保護に携わっている人々は、当事者の口から家庭内の問題を聞き出すことの難しさをよく知っています。特に子どもたちは何が問題なのかや、時には虐待されているという認識すら持っていないこともあります。大人の被害者であっても恐怖や感覚の麻痺から被害を言葉にできないこともあります。
米英両方の専門家はそのような場合に、ペットの犬や猫について質問することが重要であるとしています。「ペットはどこで寝ているの?」「誰がペットにごはんをあげるの?」といった日常的な質問をすること、家族とペットの絵を描かせることなどで、動物の扱いに関する違和感や異常性が垣間見え、問題をあぶり出す手がかりになることがあります。この点についての福祉や保護に携わる人々への専門的な指導の重要性も述べられています。
また法整備の面では、DV防止のための保護命令にペットを含めるよう認めること、被害者が身を寄せるシェルターに犬や猫の同行を認めることが重要だとしています。ペットのことが心配で虐待者から離れることができない被害者を救うためと、動物の安全を確保するための両方の面で求められる対策です。
まとめ
ペットの犬や猫への虐待が家庭内の子供や配偶者へのDVのシグナルとなる可能性、ペットの扱いを注意して観察することで人間と動物両方の被害者を救うことにつながるという、米英の専門家の言葉をご紹介しました。
児童福祉や法律の専門家が、このような視点を持って虐待防止に努めるのは大きな意味のあることです。日本も含めた世界の多くの国に、動物虐待を注視することが動物と人間の両方を救うことにつながるという考えが広まってほしいと願います。
《参考URL》
https://www.animaljournal.co.uk/article/welfare/domestic-abuse-animal
https://www.psychologytoday.com/us/blog/tender-paws/202204/how-animals-help-family-court-judges-make-better-decisions
https://www.ncjfcj.org/wp-content/uploads/2022/03/2022-Judge-to-Judge-Letter-3-4-22.pdf