どっちが幸せ?飼い犬と野良犬の福祉を比較研究した結果

どっちが幸せ?飼い犬と野良犬の福祉を比較研究した結果

飼い犬と野良犬、それぞれの動物福祉を比較研究した結果が報告されました。どちらが幸せとも一概には言えない興味深い結果です。

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人間に飼われるようになった犬が得たものと失ったものを考察

ソファーであくびするビーグル

人間に飼われている家庭犬と、特定の飼い主がおらず人里近くに住み着いている野良犬たちはどちらが幸せ?と聞かれれば、多くの人が「もちろん飼い犬」と答えるでしょう。

しかしほんの200年ほど前まで、世界中の多くの犬は現代の犬のような生活をしていませんでした。牧畜や狩猟など特定の仕事を持たない犬も人間に飼われるようになって多くのものを得たのは言うまでもありませんが、反対に失ったものもあります。

動物福祉という点から見れば、飼い犬と野良犬の生活はどちらにもメリットとデメリットがあると言えます。

この点についてデンマークのコペンハーゲン大学、オーストラリアのメルボルン大学、アメリカのテキサスA&M大学の獣医科学、動物福祉科学、食糧資源経済学、哲学の研究者チームが過去に発表された80件以上の文献を比較分析して考察し、その結果を発表しました。

自由に生きる「集落犬」の特徴

ストリートにたむろする犬たち

犬が家畜化されてから、仕事を与えられていない犬の多くは人間の住む集落の側で近接して暮らして来ました。その歴史は1万年以上に渡ります。彼らは人間から残り物の食べ物をもらうこともあれば、自分たちで食べ物を調達することもあり、自由に歩き回っていました。

今も世界各地にはこのようなライフスタイルの犬たちが多く暮らしており、研究者はこれらの犬を「野良犬」ではなく「集落犬」と呼び、家庭犬と区別分類しました。

世界各地の集落犬の外見的特徴は非常によく似ています。サイズは中型犬で、気候によって被毛の長さに違いがある程度です。多くの犬の体型は標準型です。

他にも世界的に共通する点が多く、性比がオスに偏っている、子犬の死亡率が高い、平均寿命の短さと犬の移動のために個体数回転率が高い、などです。怪我や病気をした場合に十分な医療を受けることはほぼないために平均寿命の短さにつながっています。成犬の多くは単独または2〜3頭の小集団で行動しており、分離不安などの問題は見られません。

人間との経験はポジティブなものからネガティブなものまで幅広くあります。これは国や地域の宗教、文化、社会背景など様々な要因によって変わります。

しかし多くの集落犬は幼少時から人間や環境への社会化の機会に恵まれており、生涯を通じて社会化の経験を強化して行きます。このため集落犬のほとんどは穏やかで社会関係における自律性が高く、衝突を回避することに長けています。

集落犬たちは人間の出すゴミを漁ったり、人間から食物を与えられたりと、人間を食物のリソースとしており、地域によっては人間に食物をねだったり、自ら人間に近寄って交流を求める場合もあります。集落犬は人間の文化や個々の人間に適応して生活しているものの、同時に人間に全面的に依存していないことも示されています。

家庭犬の福祉、良い点と損なわれている点

床に伏せているラブラドール

人間に飼われている家庭犬を集落犬と比べると、家庭犬は安全や食事が保障されており、怪我や病気の際には獣医学的な治療を受けられるなど、良好な動物福祉が認められます。これらのことから家庭犬の平均寿命は10歳を超えており、集落犬の平均の2倍以上になっています。

しかし現代の家庭犬が医学的に集落犬よりも健全かと言えば、過去の多くの文献がそうではないことを示しています。例を挙げると、劣悪な繁殖に関連する病気、うつ病、分離不安などは家庭犬に特有のものです。肥満や体重過多も家庭犬に多く見られる福祉の低下です。

家庭犬は生活のほとんど全てを飼い主がコントロールしているため、彼らの生活は全面的に人間に依存しています。社会的な動物である犬が他の人間や犬と1日中交流することなく単独で留守番をしている場合、分離不安などの障害につながりやすくなります。

障害とは言えないまでも飼い主と離れることに対して精神的苦痛を感じることは、犬の福祉を損なうと考えられます。

犬の生育環境によっては幼少期からの社会化が不十分または皆無の場合もあり、これが過度の恐怖や不安障害、攻撃性につながることがあります。

また人間から犬への過度な社会的要求が、犬の福祉と人間の安全を損なう場合があります。過度な要求とは「犬は社交的で友好的、穏やかでありながら元気でエネルギッシュ、トレーニングがしやすく、1日に何時間も社会的孤独に耐えることができ、見知らぬ犬とも仲良くできる」と言ったものです。

人間が犬に対して一方的にこれらのことを求め、恐怖やフラストレーションを感じた犬が攻撃的になると犬にも人にも危険です。

集落犬と違って、見た目の可愛らしさや美しさを追求するために繁殖された家庭犬は、先天的に健康上の問題を抱えていることも少なくありません。これは犬の福祉にとって深刻な悪影響で、純血種の犬の不適切な繁殖スキームの早急な改善が必要です。

このように「集落犬と比較すると家庭犬の福祉は全ての点において良好」とは言えないことが分かります。そして家庭犬の福祉を向上させるために具体的にどのように取り組むべきかが浮き彫りになるとも言えます。

まとめ

ビーチの集落犬

家庭犬と集落犬についての過去の文献から、それぞれの福祉を比較分析した結果についてご紹介しました。

野良犬と呼ばれる集落犬は国や地域によっては公衆衛生や安全の面でその存在が全面的に良しとは言えない場合もありますが、彼らが生き物として100%不幸とも言えません。

人間は医療や食料以外に犬に何を与えなくてはならないか、人間から犬に一方的な要求を押し付けていないか、現代に蔓延している誤った繁殖についてどれくらい知っているか、集落犬と比較すると明確になる点がたくさんあります。

犬の福祉とは高級食材のトリーツやフカフカのベッドだけではないということを多くの飼い主が知っておく必要があります。

《参考URL》
https://doi.org/10.1016/j.applanim.2022.105640

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