1.高さ6フィートのウォールから着地する時、関節への影響は?
近年アジリティーなどのドッグスポーツによる怪我や障害についての研究が増えています。これらの研究は、犬の身体への長期的なダメージを予防するために競技内容の変更や、トレーニング方法の改善などに役立てられています。
しかし警察犬や軍用犬の訓練や、その方法をベースにしたワーキングトライアルという競技では1960年代以降ほとんど変更されておらず、研究も行われていませんでした。
この度、イギリスのノッティンガム・トレント大学とハーパー・アダムス大学の研究者チームがケネルクラブの協力を得て、ワーキングトライアルの中の6フィート(約180cm)のウォールから着地することが犬の前足と肩の関節に与える影響について調査を行い、その結果が報告されました。
2.ウォールの高さを変えると関節への影響はどれくらい変化するかを調査
警察犬や軍用犬の訓練のためのワーキングトライアルには、高さ6フィート(約180cm)の木製のウォール(壁)に静止状態からよじ登って、決まった方法で飛び降りて着地するという項目があります。この研究ではウォールの高さの変化が、着地の際の圧力および犬の関節の角度に影響を及ぼすかどうかが調査されました。
定期的にワーキングトライアルに参加しているハンドラーを通じて参加者が募集され、21頭の犬が採用されました。犬たちは少なくとも12ヶ月の訓練経験が有り、全員が6フィートのウォールをクリアすることができます。
21頭の犬の犬種は、ボーダーコリー、ゴールデンレトリーバー、ジャーマンシェパード、ベルジアンマリノア、ラブラドール、スパニエル/ラブラドールミックスでした。
犬とハンドラーは6フィート、5.5フィート、5フィートの3種類の高さのウォールをクリアすることが求められ、データ収集には着地点に置かれた圧力感知マットと画像分析ソフトウェアが使用されました。
圧力感知マットでは垂直着地時の圧力のピーク値が計測され、犬の動きを録画したソフトウェアでは着地時の肩関節の角度や着地時間の変化が分析されました。
3.ウォールから着地した際のインパクト
ウォールから圧力感知マットに着地した際の圧力のピーク値は体重によって、高さから受ける影響に違いが見られました。
- 体重25kg以上の犬はウォールが高いほど着地時の圧力のピーク値が大きくなった
- 体重25kg未満の犬ではウォールの高さが着地時の圧力のピーク値に影響を及ぼさなかった
着地した際の手根骨のある部位の関節の角度についても分析されました。(人間で言えば手首の複数の骨の総称、犬では上記イラスト左側のCarpalsと書かれている部位)
- 体重25kg以上の犬では、どの高さでも着地の際の手根角度に有意な違いがなかった
- 体重25kg未満の犬では5フィートのウォールが他の2つに比べて有意に角度が小さくなった
測定されたデータを総合すると、ウォールの高さを5.5フィートまで下げた時に着地時の圧力のピーク値が小さくなり、着地時の関節角度の圧縮も小さくなることが示されました。
研究者はワーキングトライアルのウォールの高さを現行の6フィートから5.5フィートへ下げることが、犬の身体にとって長期的に良い影響を与える可能性があると述べています。
まとめ
警察犬や軍用犬の訓練、そのスタイルをベースにした競技の中の木製のウォールの高さを現行の6フィートよりも0.5フィート低い5.5フィートにすると、着地の際の衝撃が小さくなり犬の身体に好影響であるという調査結果をご紹介しました。
このような研究はトレーニングやアクティビティに参加する犬のリスクを正確に知り、改善するための科学的なエビデンスとして重要です。
《参考URL》
https://doi.org/10.3389/fvets.2021.742068