イギリスで初めて作成された犬の生命表
『生命表』、普段あまり耳にすることのない言葉ですね。これは人口統計学において、特定の集団の年齢別や性別に対する死亡率や平均余命を示す表のことです。日本では厚生労働省が作成して公表しています。
この度、イギリスの王立獣医科大学が台湾の国立台湾大学との共同研究によって、イギリスの18犬種の犬の生命表を作成し発表しました。ある時点での犬の平均的な余命を確定するために従来の平均死亡年齢が用いられていました。しかし生命表というツールを使うことで、より正確な平均余命の推定が可能になります。
王立獣医科大学はイギリス全土の一般動物病院の診療データを匿名で一括して収集管理するシステムを運営しています。このおかげで大規模なデータ入手が容易になり、犬の生命表の作成という新しい概念の研究へとつながりました。
0歳での平均余命(平均寿命)を算出した結果
研究チームは王立獣医科大学の医療データ管理システムを使って、2016年1月1日から2020年7月31日の間に死亡した、30,563頭の犬(純血種18種、雑種)の無作為サンプルを分析しました。
これらの犬の性別、不妊化手術の有無別、犬種グループ別、犬種別に分けた生命表が作成されました。0歳の時点での平均余命のことを平均寿命と言いますが、犬種別の平均寿命には大きな違いが見られました。
この研究で生命表が作成された18犬種は、アメリカンブルドッグ、ビーグル、ボーダーコリー、ボクサー、キャパリア、チワワ、コッカースパニエル、イングリッシュブルドッグ、フレンチブルドッグ、ジャーマンシェパード、ハスキー、ジャックラッセルテリア、ラブラドール、パグ、シーズー、スプリンガースパニエル、スタフォードシャーブルテリア、ヨークシャーテリア、そして雑種でした。
生命表に示された平均寿命の各項目は次のようなものでした。
- イギリスの家庭犬全体の平均寿命は11.2歳
- オス犬の平均寿命は11.1歳で、雌犬よりも4ヶ月短い
- 不妊化手術済みのオス犬の平均寿命は11.49歳、未手術は10.58歳
- 不妊化手術済みのメス犬の平均寿命は11.98歳、未手術は10.50歳
- 犬種グループ別ではテリアが最も長く(12.0歳)次がガンドッグ(11.7歳)
- 犬種別の平均寿命ではジャックラッセルテリアが最も長く12.72歳
- 犬種別平均寿命2位はヨークシャーテリア12.54歳、3位はボーダーコリー12.10歳
- 犬種別平均寿命が最も短かったのはフレンチブルドッグ4.53歳
従来の平均寿命よりも短い理由とは?
上記の数字をご覧になって「それは短すぎるのでは?」と思われた方も多いと思います。この研究では日本のペット保険会社とペット霊園のデータとの比較をしており、日本での犬の平均寿命は13.7歳となっています。
これは日本のデータ数が圧倒的に少ないことに加え、データのソースが保険会社と霊園であることと関連していると思われます。
保険に加入している場合は十分な医療を受けられる可能性が高いこと、ペット霊園を利用するような飼い主は医療にも手厚かった可能性が高いこと、さらに日本では平均寿命の長い小型犬が多いことが考えられる理由として挙げられています。
また別の面では、犬の身体では免疫系が完成するのに約1年を要します。これを踏まえて1.5歳の時点での平均余命を見ると12歳を超えて生きる犬が増え、ジャックラッセルやヨークシャーテリア、雑種では14歳前後、チワワでは15歳前後が平均死亡年齢となります。
またフレンチブルドッグの4.53歳というショッキングな数字は、この犬種の幼少期の死亡率の高さが理由の一つと考えられます。この犬種の健康問題では呼吸障害がよく知られていますが、出産の困難さのために母犬と新生児の犬の死亡率が高いことが平均寿命に大きく影響しています。
同じく短頭種のイングリッシュブルドッグ、パグ、アメリカンブルドッグも平均寿命は7〜8歳の間です。短頭種の犬も1.5歳を超えた場合の平均余命では、9〜11歳に達する場合が多くなります。
また、フレンチブルドッグが短頭種の中でも特に平均寿命が短いことは、この犬種の人気の高さと関連している可能性があります。乱繁殖の蔓延、安易に飼い始めた為の飼育放棄などが考えられる理由です。
まとめ
イギリスで膨大な量の医療データを使って犬の生命表が作成されたというニュースをご紹介しました。
この研究で作成されたような生命表は平均寿命や犬の生涯に対する理解を深め、犬の健康と福祉を向上させるための研究への応用も期待されます。平均寿命の短い犬種が短頭種に偏っていたことなどは、健康と福祉の改善が早急に必要であると示しています。
平均寿命についてより正確なことが分かるようになるのは、一般の飼い主にとってもありがたいことです。研究の続報が楽しみですね。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-022-10341-6#Sec8