犬の散歩と健康増進を読み解くための調査
ウォーキングなどで定期的に運動することが健康に良いことは広く知られています。心臓病や糖尿病などの大きな病気やメンタルを健康に保つことは社会全体の利益でもあるので、身体活動へのモチベーションを上げるための研究は重要です。中でも犬の散歩は人間の健康と動物福祉の両方に良い影響があると多くの研究が報告しています。
しかし、犬を飼っていても散歩をさせているのは家族の中の特定の人だけであったり、飼い主の誰も犬の散歩に熱心でないという例も少なくありません。
イギリスのリバプール大学の研究チームは、犬の散歩について働きかけをする層を明らかにするため、どのような属性の人が犬の散歩に意欲的なのか(逆にどのような人が無関心なのか)を調査し、その結果を発表しました。
犬の散歩のレギュラーメンバーであることに関連する因子を探ろう
データ収集はイギリスのある地域の1,280世帯を訪問して調査票を手渡し、郵送またはオンラインで返送してもらうという方法で行われました。調査票は16歳以上の世帯員と飼い犬についての調査に回答してもらうもので、最終的に113世帯191名分のデータが集まりました。
飼い主の性別や年齢、犬のサイズなど基本的な属性の他に、誰が犬の散歩に参加しているか、犬の散歩に対する意欲、散歩に出かける頻度や時間などへの回答から、定期的に犬の散歩に出かけ散歩に対する高い意欲を持っていることに関連する因子が明らかにされました。
定期的に犬の散歩に出かける基準は、週に150分以上を費やすこととしました。150分/週というのは成人の健康維持のための身体活動の最低ラインとされる数値です。散歩に対する高い意欲とは、今後1ヶ月の間に少なくとも週5日、1日30分以上を犬の散歩に費やすつもりであるという回答を基準としました。
犬の散歩への意欲が高いのはこんな人
調査の結果は次のようなものでした。
- 犬の散歩の回数の中央値は週7回、時間は週に230分
- 定期的に犬の散歩をしている人では週9回、時間は週に400分
- 不定期に犬の散歩をしている人では週2回、時間は週に45分
- 定期的に散歩をしている人は、次の1ヶ月の散歩への意欲も高い
- 結婚している(またはパートナーと住んでいる)人は次の1ヶ月の散歩への意欲が高い
- 女性の飼い主は犬の散歩を自分自身の楽しみと考える人が多い
- 犬にとって散歩は楽しみであり飼い主の責任であると考える人は散歩への意欲が高い
- 家族の中の誰かが散歩をしていると回答した人は散歩への意欲が低い
- 女性の飼い主は散歩への意欲が高い傾向がある
- 犬がソファーなど家具でくつろぐことを許す飼い主は散歩への意欲が高い
- 自己効力感の高い人は犬の散歩への意欲が高い
最後の自己効力感というのは「ある状況において必要な行動を取れると認知していること」を指し、例えば「天候の悪い日の犬の散歩はどうする?」「散歩中に問題行動のある犬と出会ったら?」「犬が散歩に行きたがらない」といった事態に、適切に対処する方法を認知している人は散歩への意欲が高いということです。
参加者からの回答を総合的に分析した結果、犬の散歩を通じて人々の身体活動を増加させ、犬の福祉を向上させるためには、男性飼い主の散歩への意欲を高めることが重要であるとしています。
また家族の中で特定の人だけが犬の散歩をしている場合、家族間で責任を共有すること、散歩をすることで複数の家族メンバーがメリットを受けられることを習慣にするための工夫が必要であるとも述べています。
まとめ
犬の散歩を定期的に行い、高い意欲を持っているのはどんな属性の人なのかという調査の結果をご紹介しました。
人々の心身の健康を向上させる公衆衛生の面では、できるだけ多くの人が意欲的に犬の散歩に参加するのは理想的なことなので、こうして「どのような層にターゲットを絞れば良いのか?」という研究は大いに意味にあることと言えます。
自己効力感の高い人は犬の散歩への意欲が高いということは、犬や犬の扱いに関する正しい知識を広めることが、積極的に散歩をしようという人が増えることにつながるのかもしれません。
《参考URL》
https://bmcpublichealth.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12889-022-12902-w