動物病院での検査に対する犬の身体的な反応を調査
私たち人間が定期的な健康診断や人間ドックを受けなくてはいけないのと同様に、ペットの動物たちも動物病院で定期的な検査を受けることは、病気の早期発見や予防のためにとても大切です。
犬や猫は人間と違って言葉で不調を訴えることができないので、検査の重要性はさらに高いとも言えます。
しかし、検査台の上で馴染みのない人たちに囲まれて検査を受けることを怖いと感じる犬も少なくありません。この度オーストラリアのアデレード大学の獣医学の研究チームが、犬が動物病院で受ける標準的な検査に対して、生理的および行動的にどのような反応を示すかという調査の結果を発表しました。
同研究チームは2019年に「動物病院が怖い犬のリスク要因」についての調査結果を発表しています。
https://wanchan.jp/column/detail/16008
模擬動物病院で犬の心拍数を計測
この研究では、実際の医療施設ではなく動物病院を模して作られた環境で、病院での一連の身体検査を実施しました。さまざまな年齢と犬種の30頭の犬に心拍数モニターを装着し、模擬待合室から模擬診察室への移動、診察台の上での各種検査という各段階での心拍数の変化が計測記録されました。また、心拍数の他に行動面での反応も観察記録されました。
待合室での30頭の犬の平均心拍数は97.7bpmでした。(bpm=1分間に心臓が動く回数)診察室に移動すると平均心拍数は123.5bpmと有意な上昇を見せました。
各検査の段階でも心拍数の変化が確認されました。平均心拍数が最も高くなったのは一番最初に検査者がポンポンと身体を撫でた時の138bpmと、一番最後にワクチン接種のシミュレーションを行った時の133.8bpmでした。中間の段階で実施された歯の検査では平均心拍数は最も低い109.6bpmでした。
30頭中11頭は検査中に心拍数が180bpmを超えてピークとなり、最も心拍数が上昇したグレーハウンドでは230bpmを記録しました。またメス犬はオス犬よりも心拍数の上昇が顕著でした。
行動面では「尻尾を脚の間に挟む」「耳を後ろに倒す」などの恐怖を示すボディランゲージが観察され、これらは心拍数の上昇と中程度に相関していることが分かりました。
診察に恐怖を感じる犬にどう対処すればいい?
犬が動物病院で恐怖や不安を感じる理由は、他の動物の存在、音、臭いによって引き起こされる可能性と、身体検査または身体を触られることに関する過去の嫌な経験が恐怖につながる可能性が指摘されています。
過去の嫌な経験がある場合、ポジティブな印象と経験に置き換えられるような工夫が必要です。犬が特別に好きなトリーツを持参して獣医師や病院スタッフから与えてもらう、普段の散歩の時などに病院に立ち寄って犬にとって馴染みのある場所や人々だと認識させる、といったことです。
また家庭では、ハズバンダリートレーニング(受動動作訓練)の手法を用いて、身体のどこを触られても平気になるようゆっくりと時間をかけてトレーニングすることも大切です。絶対に無理強いや体罰を使ってはいけません。
どんなに工夫しても病院に対する不安や恐怖が強すぎて診察に支障が出る場合には、動物行動治療の専門家に相談することも検討しましょう。
まとめ
動物病院を模した環境で、検査を受ける犬の心拍数や行動を調査したところ、ほとんどの犬は心拍数の上昇や恐怖を示す行動を見せたという結果をご紹介しました。
「病院が嫌なのは当たり前だし、大切なことだから我慢させよう」というやり方は、動物の福祉を損なうだけでなく、獣医師や病院スタッフの怪我といったリスクをも高くします。愛犬が病院に対する恐怖を強く示す場合にはかかりつけの獣医師とよく相談して、解決策を探していくことが大切です。
《参考URL》
https://doi.org/10.1016/j.jveb.2022.03.003
https://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-10735171/Dogs-average-heart-rate-DOUBLES-waiting-room-examination-table-vet.html