犬と人間、両方の生活の質を損ねる犬の常同行動
犬が自分の尻尾を追いかけてくるくる回り続けたり、怪我も痒みもない体の一部を執拗に舐め続けたりする常同行動は、強迫性障害とも呼ばれる行動障害です。
人間で言えば、何度も戸締まりや元栓を確認せずにはいられず外出の妨げになったり、過度の潔癖症で生活に支障を来たしてしまうのと同じ類です。
これは犬にとってはもちろん、一緒に暮らす人間にとっても生活の質を低下させる辛いもので、犬の常同行動については多くの研究が行われています。
この度フィンランドのヘルシンキ大学獣医学部の研究チームが、犬の常同行動について犬の飼い主を対象にした大規模なアンケート調査を実施し、データを分析した結果を発表しました。
常同行動のある犬とない犬の飼い主への大規模アンケート
調査への参加者はオンラインで募集され、常同行動を示す犬1,315頭と常同行動のない犬3,121頭、合計4,436頭の犬の飼い主が回答しました。
寄せられた回答から、統計学的要因については以下のようなことが分かりました。
- 幼犬では常同行動の率が高く、8歳までは年齢と共に減少、高齢犬では再び増加した
- オス犬とメス犬の間では有意な違いは認められなかった
- 不妊化手術をした犬の方が常同行動の率が高かった
生活環境に関連することでは、次のようなことが分かりました。
- 1日の運動時間が短い犬ほど常同行動が現れる率が高かった
- 単独飼育の犬は多頭飼いの犬よりも常同行動の率が高かった
- 飼い主が犬を飼うのが初めての場合、常同行動の率が高かった
- 飼い主が単身者の場合、常同行動の率が低かった
また常同行動が多く見られる犬種は
- ジャーマンシェパード
- チャイニーズクレステッドドッグ
- ウェルシュコーギーペンブローク
- スピッツ
- スタフォードシャーブルテリア
反対に常同行動が少ない犬種はスムースコリー、ミニチュアシュナウザー、ジャックラッセルテリア、ラフコリーでした。
また多動性/衝動性、不注意、攻撃性は常同行動が現れる確率と正の相関がありました。多動性/衝動性、不注意、攻撃性のスコアが高い犬には常同行動が高い率で見られたということです。
常同行動の因子、それぞれの理由
この調査は因果関係を調べるものではありませんが、研究者は上記のような因子について考察を述べています。犬の年齢と常同行動について子犬期では一時的な行動であることが多く、高齢犬では認知機能障害の可能性が考えられます。
不妊化手術については過去の研究で反対の結果も報告されており、不妊化した犬に常同行動が多いのか、常同行動など望ましくない行動のために不妊化手術を受けたのかといった因果関係は不明だとしています。
生活環境の因子は、ストレスが常同行動を強くすることと関連しています。運動量の少なさはその典型的なものです。また初めての飼い主は、トレーニングなどに不慣れで一貫性に欠けることが多く、これが犬のストレスやフラストレーションにつながりやすいとしています。
多頭飼いでは他の犬との相互作用で退屈する時間が減ること、単身者の飼育は飼い主との接触がより多いことでストレスが軽減されると考えられます。
犬種については、ジャーマンシェパードとスタフォードシャーブルテリアで特に常同行動が多く報告されており、遺伝的な要因があると考えられます。過去の他の研究でも常同行動に関連する遺伝子が報告されています。
多動性/衝動性、不注意、攻撃性と常同行動の関連については、行動上の併存疾患であることを示しています。これらは過去の研究でも併存性が認められています。
人間の場合も強迫性障害とADHDに高い併存性があり、攻撃性は強迫性障害と衝動性障害の両方に共通しています。これらは一部の常同行動が脳の構造、神経の機能、遺伝的要因に関連する可能性を示しており、今後の研究のポイントとなります。
まとめ
犬の常同行動についての大規模なアンケート調査から分かったこと、考察されることをご紹介しました。
遺伝的要因や疾患に関連することは専門家の研究が必要ですが、犬のストレス緩和に関連することは飼い主のケアで解決できる可能性もあります。悩んだ時にはドッグトレーナーや行動治療の獣医師の手を借りることも一手です。
《参考URL》
https://www.nature.com/articles/s41598-022-07443-6